海外情勢

「卒業生の4割は無職だが…」中国政府が“起業学部ライバー養成学科”に力を入れるワケ (3/3ページ)

 ■どうせ働くならフリーランサーがいい

 一方、就業した者は2104人いるが、このうち企業と雇用契約を交わした者は956人と半数以下にとどまる。同時に目を引くのが、フリーランサーを選択した者が496人(13%)もいるということだ。

 同大学を卒業すれば、有名企業で花形職業に就くのも夢ではない。だが、リポートから見て取れるのは明らかな「就職離れ」であり、「仕事をするならフリーランサーの道を歩む」という傾向だ。

 ちなみに、2020年6月29日、中国教育部(日本の文部科学省に相当)は、大学から報告される就職先データを精査すると通達した。就職実績を上げたい大学が、雇用先と虚偽の契約を交わしたり、雇用証明書を改ざんしたりするなどして、教育部に報告していたためだ。

 教育部は大学に対し、「卒業生に雇用契約や労働契約へのサインを強制してはならない」とも警告している。こうした通達からも「大学生の就職離れ」が国家的な重大問題となっていることが伺える。

 ■将来の中国を担う若者たちの“変化”

 このリポートが示すのは、卒業生の"新しい生き方"の選択だ。振り返れば、中国には特有の職業観があった。2000年代前半、筆者が居住していた上海で、多くの若者に共通する将来の夢は「有名企業の管理職か社長になりたい」というものだった。彼らの両親も、子息が国営か外資系の大企業に就職することを望んでいた。

 若者の憧れの職場は、時代とともに変化した。2000年代中盤から住宅ブームが到来し、不動産会社が人気の職場となった。2010年代の株バブル期は、破格のボーナスが出るという証券会社にスポットが当たった。国家が経営母体の中央企業にも希望者が殺到した。いずれも短期間のうちに高年収を稼げることで共通している。

 一方で、フリーランサーの地位も徐々に高まった。少なくとも2000年代の中国でも、所属企業のないフリーランサーという働き方は異端視され、卒業生の誰もが雇用先を探していたものだが、リポートからも分かるように、新しい世代はフリーランサーへの抵抗をなくしている。

 それを象徴するのが、フリーランス的な働き方ができるライバーだ。企業の厳しい労働条件に縛られることもなく、「売り上げ金額10億元(約170億円)」などという一獲千金も夢ではないため、2020年代に入ると、ライバーに夢を託す若者たちが出現した。実際、大学や専門学校在学中にライブコマースの味をしめ、卒業後もこれを生業にする人材は少なくない。

 ■政府の切羽詰まった状況が見て取れる

 「ライブ配信者」が中国で正式な職業に認定されたのは、「産業の構造転換」と「労働観の転換」で、従来の雇用がもはや受け皿とはなり得なくなったためだが、市場規模が拡大するライブコマースを、フリーランサーのまま水面下にとどまらせておくわけにはいかないという、政府の焦りも垣間見える。

 これを正規の職種に格上げすれば、少なくとも「公認の職に就業している人数」は増え、統計上の体裁も整うからだ。仮にこのまま卒業生の就職動向を正確に把握できない状態が続けば、政府の雇用政策に影響が及び、ひいては国家の基盤を大きく揺るがすことになりかねない。

 デジタル革命により、中国では誰でもスマホひとつで金が稼げる時代になった。「ライバーの公式認定」からは、普通のサラリーマン職に関心を失い自由な生き方を望む中国の90后世代と、それを必死で追いかける中国政府の、切羽詰まった状況が見て取れるのである。

 

 姫田 小夏(ひめだ・こなつ)

 フリージャーナリスト

 東京都出身。フリージャーナリスト。アジア・ビズ・フォーラム主宰。上海財経大学公共経済管理学院・公共経営修士(MPA)。1990年代初頭から中国との往来を開始。上海と北京で日本人向けビジネス情報誌を創刊し、10年にわたり初代編集長を務める。約15年を上海で過ごしたのち帰国、現在は日中のビジネス環境の変化や中国とアジア周辺国の関わりを独自の視点で取材、著書に『インバウンドの罠』(時事出版)『バングラデシュ成長企業』(共著、カナリアコミュニケーションズ)など、近著に『ポストコロナと中国の世界観』(集広舎)がある。

 

 (フリージャーナリスト 姫田 小夏)(PRESIDENT Online)

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