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ワクチンパスポート普及に課題 日本…隔離維持、海外…ふぞろいルール

 政府は26日から新型コロナウイルスのワクチン接種履歴を示す「ワクチンパスポート(証明書)」の交付手続きを始める。既に欧州連合(EU)などが導入しており、各国・地域ともスムーズな海外渡航を可能にすることで経済の活性化につなげたい考えだ。ただ、日本は海外からの入国・帰国時の2週間隔離が維持されているほか、海外でもふぞろいなルールや規格への対応が急務とされ、利用拡大に向けた課題は多い。

ハワイは有効活用でレストラン予約取れず

 「米国本土で接種した人への入島制限が緩和された8日以降、観光客など入島者数は一気に15%くらい増えた。レストランも予約を取れず、軽いパニック状態になっている」

 コロナ禍前は日本人観光客も多く訪れていた米国・ハワイ。全日本空輸ホノルル支店の後藤勝副支店長は、現地の意外な状況を明かした。

 これまでハワイ州政府は州外でのワクチン接種者に対し、出発前72時間以内に実施した検査による陰性証明の提示、もしくは10日間の自己隔離を求めてきた。だが、8日以降は米本土で発行されたワクチン接種証明書があれば、それらの措置を免除することとした。

 州観光局によると、現在は2019年全体の入島者数を超えるペースで観光客が訪問。日本からの渡航に関しても、将来的に接種証明書などの提示で隔離措置を免除するかどうか協議入りの検討が行われている。

 後藤氏は「ハワイでは試行錯誤しつつも、飲食店などでの活用を含めワクチンパスポートをうまく活用している」と指摘する。

 日本では出国者向けに接種証明書が発行され、国内利用は現時点で想定されていない。入国・帰国時の2週間隔離ルールも続いており、人の行き来を増やしたり、接種証明書を普及させたりするには厳しい状況となっている。

専門家が指摘するメリットは

 日本ではワクチンを接種した際に住民票があった市区町村が接種証明書を発行する。申請書やパスポートなどの添付書類の提出が求められ、自治体によっては即日発行も可能だ。発行手数料は原則無料だが、郵送を希望した場合は郵送料の負担が必要となる。

 PCR検査などによる陰性証明と比べ、どのようなメリットがあるのか。日本渡航医学会理事の大越裕文医師によると、接種証明は陰性証明と違って証明期間が長く、繰り返し検査する必要がない。誤った検査結果が出るという懸念もない。「日本はワクチンという武器を得たのだから、もっと上手に活用してもいいのでは」と首をかしげる。

 海外の状況を見ると、7月からEUが域内共通のデジタル証明書を本格導入した。デジタル証明書は接種証明に加え、陰性証明など多くの健康情報が利用者のスマートフォンに記録されている。商業施設に入る際などにも活用される。東南アジア諸国連合(ASEAN)なども導入を前向きに検討しているという。

 ただ、世界中で導入されると話は複雑になる。航空業界関係者らによると、国や地域によって認可ワクチンの種類が異なるほか、陰性証明もあわせて提示を求められるケースが多い中、検査方法などがまちまちなため、入国審査の確認作業が煩雑となる。証明書内容が“多様化”するほど行列が長くなるわけだ。

複数アプリで混乱も

 ルールの不統一を補うべく、世界共通のデジタル証明書として使えるスマホアプリも開発された。スイスのシンクタンク「世界経済フォーラム」(WEF)や航空会社の業界団体「国際航空運送協会(IATA)などが開発。利用者の証明情報について、渡航先が定める入国条件に適合するかどうかまで判定してくれる機能を持つ。

 海外の航空会社や空港は搭乗時の健康確認手段として積極的に導入。国内の航空会社でも今年3月から試験運用されたが、本運用は入管当局との連携の問題などもあり、現時点で政府が認めていない。

 WEFの日本センタープロジェクト長を務める慶応大医学部の藤田卓仙(たかのり)特任准教授は、デジタル証明書の利点を「例えば渡航先に合わせて複数言語で表示したり、元のデータにひもづけることで偽造されてもチェックしたりしやすい」と説明。当面は紙の証明書としている日本政府には、こうしたメリットから早期のデジタル化を求める。

 ただ、既に類似のアプリが乱立しており、互換性や相互連携性に欠け、さまざまな不便が生じているという課題もある。例えば国際便を乗り継ぐとき、別々の航空会社が異なるアプリを導入していると、乗客は複数のアプリを使い分ける必要が出てくる。

 藤田氏は「WHO(世界保健機関)などの国際機関が、一定の国際基準をガイドラインで示すべきだ」と普及に向けた環境整備を求めている。(福田涼太郎)

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