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病床はあるのにコロナ患者は自宅療養 政府が見落としている医療体制の問題点 (2/3ページ)

救急患者のたらい回しが増えたワケ

 多額の補助金は配られたが、残念ながら医療提供体制は改善されていない。典型的な例は、搬送困難事例の増加だ。

 感染が拡大するにつれて、都市部の救急搬送機能は麻痺状態に陥っており、数多くの搬送困難事例も報告されている。日本における「救急搬送困難事案」には決まった定義があり、それは「医療機関への受け入れ照会回数4回以上」かつ「現場滞在時間30分以上」というものだ。言い換えれば、3つ以上の病院に受け入れを断られて初めて「救急搬送困難事案」となる。

 どのような患者が受け入れを断られているのかというと、まず「コロナ疑い」の患者の搬送が困難になっているようだ。自宅療養中に症状が悪化した患者でも搬送段階ではPCR検査の結果が出ておらず、陽性が確定していない場合がある。そうした患者は通常の患者と同じように、コロナ対応していない病院も含めて搬送先が選定される。当然、「もしもコロナだったら……」と考える病院は受け入れを断ることになる。

 一方、陽性が確定している患者の受け入れはいわゆる「重点医療機関」を中心に担われている。重点医療機関とは、新型コロナウイルス感染症患者あるいは疑い患者用の病床確保を行っている病院のことで、確保しているすべての病床で中等症の患者を積極的に受け入れることが期待されている。重点医療機関は空床確保料をもらっていることもあり、基本的にコロナ患者の受け入れを断らないことが想定されているが、実際には「直前まで診ていた一般診療の患者のベッドをすぐに開けられない」等の理由で断るケースもある。

救急患者を断れる日本、断らないアメリカ

 コロナに限らず、「緊急の患者を断れる」というのは、平時から続く日本の医療提供体制の特徴でもある。例えば、平時から東京では1%程度の搬送が搬送困難事例となっている。医療事故が相次ぎ診療報酬も削減された2006年前後には、患者のたらい回しが社会問題化し「医療崩壊」と呼ばれた。

 「患者を断る病院」という報道に長い間慣れきっていると、救急医療とはそういうものかと思ってしまうが、患者の「たらい回し」は海外では日本のような社会問題には発展はしてない。

 最も有名な例は米国だろう。米国では1986年に制定されたEmergency Medical Treatment and Active Labor Act(EMTALA法)で、病院が救急患者に対して適切な診療を行わない場合には罰則の対象となっている。当時米国では、無保険者が民間病院に救急搬送の受け入れを拒否されることが社会問題化しており、EMTALA法はその解決策として制定された。

 なお、EMTALA法は救急車内にいる病院搬入前患者の搬送要請には適用されていないので、「ベッドが満床なので断る」ということは依然として可能だ。そのため、日本の上記のような搬送困難事例の解決策として考えるのは必ずしも正しくないが、「どんな救急患者でも受け入れる」という救急医療提供体制はER型(北米型)と呼ばれており、近年日本でも地域的に導入するところが増えてきている。

 例えば、東京ベイ・浦安・市川医療センターでは「24時間365日断らない」ことを救急外来のポリシーとして掲げている。こうした強固な救急医療体制の整備は、延び続ける搬送時間の短縮にも有効だ。筆者がER型を日本で実施している医師たちと2019年に共同で行った研究では、浦安・市川や鎌倉といったER型が実施されている地域では、搬送時間が隣接地域と比較しておおむね5分程度短かった。

報酬目当てで急性期医療に手を出す病院も

 コロナ患者、および疑い患者の搬送困難事例が伝えられる中で、平時から救急搬送受け入れの義務化を通じて「24時間365日断らない」病院を整備・支援していくということは必要に思える。加えてそうした方向性には、救急搬送の問題のみならず、長らく医療提供体制の課題だった、病院の機能強化・分化を促す面もあるだろう。

 現在の日本の医療提供体制では中小規模の民間病院が乱立しており、救急医療に携わる急性期病院であっても救急専門医が1人しか常駐しない病院もある。また、看護配置の高い病院に手厚い診療報酬を設定していたこともあり、実際には急性期の患者の診療実績が乏しい病院まで急性期医療に参画してしまっている。

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