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病床はあるのにコロナ患者は自宅療養 政府が見落としている医療体制の問題点 (3/3ページ)

 地域医療構想における「高度急性期」および「急性期」の病床割合は約6割にのぼっており、急性期の医療機能が集約化されていないこともたびたび指摘されている。言葉は悪いが、困難な患者の受け入れは断ってしまえるので、多くの病院が診療報酬上のメリットを目当てに急性期医療に手を上げているという実態もあるだろう。

乱立する中小民間病院の統廃合が必要だ

 一方、ER型で実施されている「24時間365日断らない医療」のためには、人材を含めて多くの医療資源をその病院に集中する必要があり、弱い機能の病院では難しいことから、おのずと医療機能の分化が進む。既に高い水準にある医療者の労働負担を下げながらこうした強い病院を作ることは集約化なしには難しく、多すぎる病院の統廃合も実際には必要だろう。少なくとも、搬送を断らない病院は日本国内に既にあり、そうした病院のノウハウや知見がもっと広く共有され、診療報酬上も高く評価される必要がある。

 加えて、病院の機能分化・強化を進める政策は、そのまま未知の新興感染症への対策にもなる。コロナ禍では急性期の医療機能が分散されているために、強力に患者を受け入れる病院がなく、そのために医療連携がすぐに困難になってしまった。

 例えば、重症化した患者を診る大規模病院であっても、コロナ対応の集中治療室が10床程度であれば感染拡大に伴いあっという間に満床になってしまう。そうなると近隣の中等症を受け入れる病院も、重症化リスクの高い患者を受け入れることに躊躇してしまう。結果として医療システム全体が逼迫し、患者が必要な医療を受けられないケースも出てしまった。

医療崩壊は金銭的インセンティブだけでは解決しない

 コロナ禍という非常事態では、病院が患者を受け入れないという事実がクローズアップされた。こうした事態を避けたいのであれば、平時から医療者の過度な負担なしに「24時間365日断らない医療」が実現できるような仕組みが指向される必要がある。また「24時間365日断らない医療」に過度に依存しない、国民の良識ある受診行動も大切になるだろう。平時にできていないことを有事に実行することは不可能だ。

 政府は病院にコロナ患者を受け入れてもらうために、空床確保料という潤沢な金銭的インセンティブを与えることで対処してきた。膨大な公金が投じられた一方で、国際的には少ない感染者数にもかかわらず医療システムはすぐに逼迫してしまっている。この事実は個々の医療従事者の献身的な取り組みとは全く別に、全体的なシステムとしてわれわれの医療提供体制が大きな問題を抱えていることを示唆している。

 急性期の医療機能の分化の問題とともに、緊急事態宣言下における医療従事者の義務とは何か、将来に向けて明らかにされる機会も必要だろう。飲食店における営業の自由をはじめ、多くの人の基本的権利が感染抑制のため長期間制限される中、医療従事者には強制力を伴う診療協力や米国で行われているような病床拡大の義務化ではなく、病院によっては大幅黒字になるほどの強力な金銭的誘導が行われている。これはバランスを欠いているのではないだろうか。

 ワクチンの普及とともにこれ以上の自粛の継続は難しくなっており、医療機能の強化という下支えのもとに経済を徐々に回していく局面に差し掛かっている。今回取り上げた救急医療体制の課題は医療提供体制全体の一部でしかないが、さまざまな面で、コロナ禍で浮かび上がった課題をポストコロナの医療に生かしていく必要があるだろう。(一橋大学経済学研究科准教授 高久 玲音)

 高久 玲音(たかく・れお)

 一橋大学経済学研究科准教授

 1984年生まれ。2007年に慶応義塾大学を卒業し、19年から現職。専門は医療経済学、応用ミクロ計量経済学。東京都地域医療構想アドバイザーも兼任。

 (PRESIDENT Online)

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