田中秀臣の超経済学

なめられる政治家と国民 財務次官のバラマキ批判は「倒閣運動」か (2/2ページ)

田中秀臣
田中秀臣

 矢野氏の積極的な貢献も、実はある。それは財務省の官僚が、政治家をなめ切っていることが明らかになったことだ。実際に鈴木俊一財務相は、「今までの政府方針を否定するようなものではなく、問題ではない」と断言してしまっている。しかし、上記のように「経済最優先」での積極的な補正予算という政府方針を、矢野論説が否定していることは自明である。

 鈴木財務相は就任してから、財政再建を優先するような発言をしたかと思えば、翌日にはアベノミクスを推進する(=経済再建優先)などと言い、その見識のなさはある意味で見事なぐらいだ。そんな財務相のレベルを見越した矢野氏の言いたい放題なのかもしれない。

 このまま矢野氏が“おとがめなし”であれば、ますます財務官僚たちの政治軽視、すなわち国民軽視は加速するだろう。もちろん、なんらかの“おとがめ”があれば、財務官僚ムラは、その仲良しグループであるマスコミと連動して、政府をさまざまな形で攻撃するだろう。まさに腐敗した官僚たちのよくやる手口である。しかも自分たちは「不偏不党」で「正しい」ことを行っているという過大なエリート意識に裏付けられているので、始末に負えない。

本当に「忠犬」か

 矢野論説の経済論的な誤りも多い。嘉悦大学の高橋洋一教授が主に統合政府のバランスシート分析から、矢野論説を批判している。その他にも矢野氏は、低金利が続くうちにプライマリーバランスの黒字化を実現すべきだ、と言っている。その手段は積極的な財政政策ではなく、「財政再建」だという。つまりは歳出削減と税率引き上げでの歳入増を目指すということなのかもしれない。矢野氏の考えでは、経済成長の安定化、つまりは国民の生活の改善は二の次なのだ。

 実際に彼の論説では、財政政策は単年度での「膨張」がずっと継続して、それが財政危機を生み出すと見なされている。財政政策は国民生活の状況に応じて機動的に行えばいいだけだ。国民の苦境がひどいときは積極財政をやり、改善すれば抑制すればいい。

 だが、アベノミクス期間中では、十分にデフレ脱却をしないうちに、矢野氏ら財務官僚らは「財政再建」=消費増税を推進した。そのためデフレ脱却は達成できないまま、それが国民の生活の不安定をもたらした。

 おそらく矢野氏の肥大化したエリート意識からは、政治家も国民もどんどん必要でもない放漫財政を望んでしまう存在でしかないのだろう。つまり愚民観、あるいは度し難い国民への不信が、矢野論説の前提にある。

 「不偏不党」で「(国民にとって)有意な忠犬」であるべきだとも書いているが、実際には彼はまったく国民を信用していない。財政再建派官僚とは、そういう二枚舌的な存在なのかもしれない。

田中秀臣(たなか・ひでとみ)
田中秀臣(たなか・ひでとみ) 上武大ビジネス情報学部教授、経済学者
昭和36年生まれ。早稲田大大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。専門は日本経済思想史、日本経済論。主な著書に『経済論戦の読み方』(講談社現代新書)、『AKB48の経済学』(朝日新聞出版)など。近著に『脱GHQ史観の経済学』(PHP新書)。

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