韓国財界、アベノミクス脅威論 円安による日本企業復活を警戒

2012.12.31 09:00

 日本の安倍晋三政権誕生で韓国財界には、円安株高などアベノミクス効果に対する脅威論が高まっている。

 韓国側ではさらに、朴槿恵(パククネ)次期大統領が雇用対策や福祉予算捻出のために実行するとしている財閥など大企業への規制強化や富裕層への増税など「経済民主化」政策が追い打ちをかけるとの懸念も。日韓新政権の経済運営の変化によって、両国経済戦争の情勢地図が塗り変わるか、高い関心が集まっている。

 安倍政権誕生と前後して、韓国財界には円安で日本企業が息を吹き返すことへの警戒心が生まれているようだ。韓国の経団連に相当する「全国経済人連合会(全経連)」関係者はこう指摘する。

 「サムスン電子や現代自動車など、韓国経済を牽引(けんいん)してきた世界的企業の武器はウォン安による高い国際競争力だった。だが円安が進み、かなりの水準で安定すると世界市場での韓国の相対競争力が長期にわたって下落、結果的に韓国経済の成長を維持するダイナモ(原動力)が失われる可能性がある」

 サムスン証券の試算によると、円安が1ドル=110円まで進行すると韓国大手企業の営業利益は、最も影響を受ける航空業界で46.6%減少。対日競争力が大きい自動車でも4.2%、対日で圧倒的な優位を保つテレビ・携帯電話などでも2.3%のマイナス予測が出た。企業別では、ポスコが7%減-。

 韓国の大韓貿易投資振興公社(KOTRA)のまとめでは、対ドルレートで円が1円下がると、トヨタ自動車の営業利益は400億円増加するとされる。これに対し9月には100円=1420ウォンだったウォンが12月17日には1276ウォンまで上昇するなど値上がり基調だ。

 国家牽引力の喪失…。これが韓国が恐れる最悪のシナリオだ。

 韓国中小企業の経営心理への影響も大きい。韓国貿易協会の調べでは、中小企業の4社に1社が、円高によって「新たな競争の構図が出現する」と答え、5社に1社は「輸出競争力に悪影響が出る」と回答している。

 これに加え、韓国では国内の経済政策の転換で、大企業の経営環境が大きく変わる可能性が指摘されている。李明博政権が財閥や大企業の伸長を優先し、その結果進んだ貧富格差是正(経済民主化)を朴次期大統領は強調してきた。

 韓国では大統領選挙を通じて起きた「格差是正」の大合唱に突き動かされ、国会企画財政委員会は、大企業の最低限法人税率を現行より2%引き上げ16%とすることを決定。高所得者への課税減免政策の見直しも検討している。

 大統領選直後、朴氏は「社会から取り残されることがないよう、(国民が)経済成長の果実を分かち合えるようにする」と発言した。

 次期政権は増税せずに5年間で131兆ウォンの福祉・格差是正財源を確保するとしている。これについて韓国メディアは「事実上、富裕層の増税を意味する」(聯合ニュース)と伝えている。

 韓国には、「量的緩和政策だけでデフレから脱却し、貨幣価値切り下げに成功するという保証はない」と、アベノミクスが看板倒れに終わるとの指摘もある。だが、国内の経済政策が分配重視に向かう中で、世界市場を争う隣国の経済政策が転換する可能性に脅威を覚えているのも事実だ。(ソウル 加藤達也)

閉じる