幕の内弁当に閉口…熱々にこだわる中国人 アジアの食文化

2013.7.7 06:00

 中国ではコンビニでお握りを買うと電子レンジで温める人が圧倒的に多い。その彼らが日本にビジネスで会社訪問した時、会議室でご馳走される幕の内弁当に閉口する。「なんであんな冷めたものが食べられる?」と。

 一方、インドネシアの食生活を研究している方が「ジャカルタの官庁なんかに行っても午前の遅い時刻に自分のデスクで食事している人がいるんですよね」と話すので、「レンジなどの普及で熱いものは熱いうちに食べるという習慣に変わりませんか?」と聞いた。「それはあまり…」との回答だった。

 アジアでも地域によって料理の温度の好みが異なる。とすると家電製品の仕様も違ってくるのではないか?

 そこでパナソニック株式会社アプライアンス社海外マーケティング本部メジャーアプライアンスグループ事業企画チーム・チームリーダーの斎藤哲志さんに聞いてみよう。まず温度に対する傾向をどう分類できるだろうか。

 第一は食べ物に必ず熱さを求め、冷たいものを敬遠するタイプだ。これは中国圏。漢方の影響もあり衛生的な問題も影響しているのかもしれない。特に古い世代では日本料理は冷たいものばかりで体によくないという人もいたようだ。

 「私も中国に数年間いましたので、知らず知らずにこの感覚に影響されてしまい、料理は必ず熱くなければいけないと思ってしまいます。ただし最近は冷たい食べ物も増え、ビールも冷やす人が増えました。昔に比べて感覚は多様化してきているようです」と斎藤さん。

 二番目は熱さが苦手で常温のものを平気に食べるタイプ。

 マレーシアやインドネシア圏だ。中国圏とは反対に熱さにはこだわらない。なんとなく「ぬるい感じ」だ。インドネシアのパダン料理がその典型である。常に作り置きの小皿料理が準備されていて、席に着くと、それらがテーブルの上にざっと並べられる。お客さんは好きなものだけを食べ、食べたものの分だけ清算する。手で食べることが多い。

 「手で食べられるように料理の温度が低くなっているのか、あるいは料理の温度が低いから手で食べるようになったのか。その因果関係はわかりません。ただ、人々が猫舌なのは熱い料理を食べないからでしょう」

 「タイは詳しくないですが、地方ではマレーシアのようなぬるい料理がベースにあり、中国系が多く入りこんでいる都市部では熱い中国系の料理も幅をきかせている。こんな重層構造なのかも知れません」

 三つ目が熱いものも冷たいものも食べるタイプ。日本や韓国。

 「日本人や韓国人は、やけどしそうに熱々のものも好みますし、冷めてしまった常温の料理でも平気で食べます。特に日本人は常温よりさらに冷やしたものも好んで食べる、他に無いタイプかも知れません」

 料理は熱いうちがベストというのは、文化圏によっては通じないことが分かる。

 こうした食文化の違いが家電製品の仕様にあらわれた例として、炊飯器がある。保温時間に差があるのだ。熱々のご飯が好きな人々はご飯を炊いた後すぐ食べてしまう。

 よって保温する時間が短い。反対にぬるい食事を好む人々は炊きたてにこだわらない。一度炊いた後、食べ終わるまで、ずっと長い時間ご飯を保温する。

 「技術的に難易度が高いのは、ぬるい系の人たちへの対応です。マイコンで微妙に温度を制御できる日本で一般的なマイコン式炊飯器とは違い、まだインドネシアで一般的なのは、昔ながらのメカニカル制御のジャー炊飯器です。

 こうした炊飯器でも、できるだけご飯の味を維持しながら長期間保温するか。そこに技術的な課題があります」と斎藤さんは解説する。

 冒頭、インドネシアの例で家電の普及は熱い料理への好みを促すのではないか?とぼくは考えた。もしかしたら、そういう傾向もあるかもしれないが、大きな流れは逆だった。

 自分たちの好みに家電の仕様が近づく。他方、中国の例のように、冷蔵庫が冷たいものに好みを近づけるということもある。

 いったい日本の極端な熱さと冷たさへの拘りは家電の影響なのだろうか。それとも細かいことへの拘りの結果なのだろうか。

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