伊高級ブランドは? ブランドイメージを守る知財管理

2013.8.25 06:00

 イタリアに長年住んでよく分かったことがある。それは一般人レベルまで含め、ブランドはいかように作られるかをよく知っている、ということだ。フェラーリであれ何であれ、生産の数は限定し、上層階級の人たちに褒められる仕組みを作る。製品を作る場所がブランドの自社工場に限らないことは周知の事実だし、「悪いやつ」が余計に作って横流しすることも百も承知だ。

 だからか、ブランド崇拝が強いのにブランドにおカネを払うことに素直ではない。

 大がつく知り合いの金持ちの自宅に訪ねると、インテリアは有名デザイナーの家具でいっぱいだ…が、実はそうではなかった。すべてコピー品を作るのが得意なメーカーに作らせたものだ。ブランド品に大枚を出すのはもったいない、と。

 青空マーケットに出かけると、ブランドの服やバッグが正価の何分の1かで売っている。何十分の1でさえある。正規品のキズモノもあるが、そもそも本物かどうか怪しい。もちろんニセモノの売買は売った方も買った方も法律違反になる。しかし、それでもなくならない。

 いったいイタリアのトップファッションブランドは、今、コピーやニセモノに対してどう動いているのだろう。トレードマークやデザインなどの知的財産を専門とする弁護士のステッラ・パドヴァ-ニさんに聞いてみた。

 「この5年くらいです。イタリアのメーカーが本腰を入れ始めたのは」と彼女は話し始める。

 「ファッションメーカーのビジネスが服に加えて靴やバッグが重要なアイテムになってきたというのも大きいですね。服と違ってニセモノやコピー品の識別がよりはっきりしやすく、同じデザインが長期に渡り販売されますから意匠登録は『強力な武器』になります」

 かつて服が利益の3分の2を稼ぎ出し雑貨が残りであったのが今や半々と言われている。ヴァレンティーノ、ドルチェ&ガッバーナ、ジャンニ・ヴェルサーチェ、ジョルジョ・アルマーニ、グッチといったメーカーだ。プラダやフランスでいえばルイ・ヴィトンなどはバッグが主力商品で、これらのメーカーとはビジネスモデルを異にしてきた。

 対策としては登録済みの商標や意匠を十分にリサーチしたうえで、新しいロゴとデザインを時間的余裕もって登録する。その後にコレクションで新作を発表するのが理想だ。しかし、実際はほとんどの場合、登録のタイミングはショーの直前といってよい。

 「メーカーによりますが、1回のコレクションのために登録するデザインは平均して10件はくだらないしょうね。それもまずはEUでの確保で、その他の市場は後になります」とパドヴァーニさんは説明する。

 もちろん、デザインだけでなくブランドの名前やロゴを本物に似せた商標も頭痛の種だ。まったくの例だが、GUCCIと一見して思わせるCUCCIの類だ。

 そして更にトラブルを生んでいるのがネットを舞台としたものである。ブランド名を語ってニセモノが売られる。オリジナルのブランド名に先んじてドメイン名を登録する「目に見えない敵」がいる。熾烈な戦いだ。

 しかし、これらの争いすべてにメーカーが顔を突っ込んでいるわけではない。物理的にもコスト的にも無理だ。しかし座視を決め込んでいると思われないためにも「威嚇」して旗印を明確にする必要がある。モグラ叩きであったとしても「我々は不正を見逃さない」、と言い続ける姿勢をブランドイメージとして維持しないといけないわけだ。

 よって、いくつかの案件では「敵」に警告を発し、ドメイン名の不正利用であれば閉鎖への法的手段をとる。いずれにせよ、おカネがかかる。かくしてトップブランドになればなるほど「敵」が多く、ニセモノ撃退にコストがかかっていく。

 トップブランドのどこも、すべての市場のすべての店先からニセモノを消滅させることができるとは思っていないのは確かだ。どこからニセモノやコピーが消えればブランドイメージが保てていると思われるか?とのポイントに絞り込むしか手立てはない。蓋すべき場所にフタすることを徹底することである。

 ローカリゼーションマップの勉強会を9月21日行います。テーマは「文化コンテクストを読むサービスデザイン」です。詳細は下記。参加ご希望の方はメールでお申込みください。(http://milano.metrocs.jp/archives/5933)

閉じる