大手外資企業、日本の少子高齢社会は「宝の山」 市場研究、商機狙う

2014.8.23 07:10

 外資企業が、少子高齢社会の日本市場を「宝の山」として注目している。大学や地方自治体と提携し、市場研究や実証実験を行う事例が相次ぐ。中国やシンガポールなどアジア諸国は今後、日本と同じく短期間で高齢社会へ移行するとみられており、「高齢化最先進国」の日本で健康・福祉分野のノウハウを学び、超高齢社会を迎えるこれらの国で商機を狙う。

 世界共通の問題解決

 神戸市は今秋、高齢者の集いの場「介護予防カフェ」を始める。コーヒーを飲みながら、健康維持の情報や話し相手が得られる場を提供することで、高齢者の引きこもりや孤立を防ぐ。神戸市がカフェの運営主体を公募したところ、7、8月の説明会に約200人が集まった。年度内に100カ所を設置する目標だ。

 このプロジェクトに全面的に協力するのが、スイスに本社を置く食品最大手、ネスレだ。全てのカフェに無償でコーヒーマシンを用意し、健康づくりに関する冊子や自社の健康補助食品、独自開発の健康プログラムを提供する。

 ネスレはヘルスサイエンス部門で栄養補助食品のほか、アルツハイマーなど高齢化に伴う慢性疾患の診断や研究を手がけている。高齢社会のニーズを探りたいネスレと、「生涯現役」の高齢者を増やしたい神戸市の狙いが一致。両者は昨秋、元気な長寿社会の実現に向けた連携協定を締結した。

 日本の健康・福祉分野におけるサービス水準は高い。ネスレが海外の医療関係者を招き、日本の病院で提供される食事を視察した際、嚥下(えんげ)困難な患者にも食べやすいよう配慮されたメニューを見た参加者から、「これほどまでにサービスの質が高いとは」と驚きの声が上がったという。

 ネスレヘルスサイエンスカンパニーの中島昭広カンパニープレジデントは「日本は高齢化の課題先進国。寝たきりや認知症など、世界共通の高齢社会の問題解決をいち早く探ることができる」と指摘する。

 米ゼネラル・エレクトリック(GE)医療部門の日本法人、GEヘルスケア・ジャパンは2年前から、携帯型医療機器を搭載した小型ドクターカーを国内の過疎地に提供している。医師不足地域での新たな医療モデルの構築が目的だ。過疎地域の医療ニーズと世界で応用可能な対応策を探る実証プロジェクトと位置づける。

 同社の岡野克也取締役は「成熟市場の日本には新興国の勢いこそないが、高齢社会に挑むという成長のチャンスがある。グループ内における日本拠点の存在意義はここにある」と言い切る。

 独シーメンスも日本に注目する。ヘルスケア部門の売上高で、日本は米国に次ぐ2番目の市場。シーメンス・ジャパンは、日本の病院の医師や研究者と連携し、100以上の共同研究プロジェクトを展開。臨床現場の声をいち早く事業に取り入れている。

 同社の森秀顕常務執行役員は「高齢社会では身体への負担が少なく、国の医療費増大抑制につながる検査手法や機器の開発が必須。これは世界中の関心事項」と指摘する。

 国内の人口減少と高齢化を見据えた海外市場の開拓は、日本企業の共通課題だ。一方で、外資は成熟した日本市場に新たな付加価値を見いだしている。

 東京大学高齢社会総合研究機構は2011年、超高齢社会対策の産学連携ネットワークを設立し、47社の民間企業と共同研究を行っている。東大の秋山弘子特任教授は「世界で勝負するグローバル企業ほど日本の高齢社会研究に熱心だ」と話す。

 同機構によると、日本は1970年に高齢化率が7%を超え「高齢化社会」となってから、わずか24年で高齢化率14%超の「高齢社会」に突入した。この推移にかかった時間はフランスで126年、スウェーデンで85年だった。

 新たな基幹産業期待

 各国は、急激な高齢化に対応した日本の手法に注目している。外資企業が日本市場研究で狙うのもまさに、次なる高齢社会でのノウハウ展開だ。

 秋山特任教授は「日本は高齢化の最高の実験場。日本企業にとっても高齢社会に向けた製品やサービス、システムを開発、輸出することが最大の武器になる」と指摘。高齢社会対策という新たな基幹産業が生まれる可能性があるとしている。(滝川麻衣子)

閉じる