【高論卓説】“万里の長城”が守る市場 中国のネット産業は外資に門戸開け

2015.8.3 06:21

 2014年3月に開催された「第12期全国人民代表大会第3回会議」の政府活動報告で、中国の李克強首相が「互聯網+」(インターネット・プラス)行動計画の策定を提唱した。「互聯網」は中国語でインターネットを指す。「互聯網+銀行」だと「ネット・バンキング」となる。ネットとさまざまな産業との融合を進め、産業の発展や改革を目指そうというもので、この「互聯網+○○」は一種の流行語のようにもなっている。

 中国のインターネットユーザー数は約6.5億人で、ほぼ人口の半数に達する。そのうち8割以上がスマートフォンなどのモバイル端末で接続するユーザーだ。高度成長に陰りが出てきた中国経済にとって、ネット関連産業は期待の成長分野でもあり、官民挙げて育成に力を入れている。

 ただ、この育成の仕方が外国企業に対して「公平」とはいえない点が問題である。

 日本でもスマホは日常欠かせない道具となっている。外出の際はグーグルマップで行き先までのルートを確認し、急用で遅くなるときはLINE(ライン)などのメッセージアプリで家族に連絡を入れる。日常当たり前のように使っているアプリが、中国国内では使えなくなる。

 中国で地図アプリを使おうとすると「百度(バイドゥ)地図」など中国独自のアプリを使わざるを得ない。グーグルのサービスに接続できないからだ。メッセージアプリのLINEも昨年7月頃から中国では使えなくなっている。駐在員が日本にいる家族とメッセージのやり取りをしようと思うとテンセントの「微信」(英語名WeChat)などを使わざるを得ない。

 「アラブの春」で大きな役割を果たしたツイッターやフェイスブックも同様だ。当局に都合の悪い不特定多数と連絡を取れるアプリは、グレート・ファイア・ウォール(GFW)と呼ばれるネット上の「万里の長城」によって外部と遮断されている。

 中国の3大ネット企業は頭文字をとってBATと呼ぶ。Bはバイドゥ、Aはアリババ、Tはテンセントを指す。バイドゥはグーグルと同様に検索エンジンと地図アプリを中心に成長、アリババはアマゾンと同じインターネット通販分野、テンセントはフェイスブックと類似のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)分野を中心に発展してきた。アリババは、昨年9月のニューヨーク証券取引所での新規株式公開で時価総額が約25兆円となり、大きく報道されたのでご存じの方も多いと思う。

 アリババは、ネット通販サイトの「Tモール」などを運営し、「アリペイ」という独自の決済システムをてこに成長してきた。一方クレジットカード決済システムが外資に開放されたのは今年6月からで、それまでは中国銀聯が独占してきた。独自の決済システムを持たない外資のネット通販企業は苦戦を強いられてきた。Tモールが消費者向けネット通販市場で60%近いシェアを持つのに対し、中国アマゾンのシェアは1.5%にすぎない(中国電子商務研究センター調べ)。

 中国のネット産業は、GFWで守られた一種のガラパゴス市場の中で発展してきたといえそうだ。ただ、このガラパゴス市場、規模が大きく外資にとっても魅力的でもある。そろそろ世界第2位の経済大国にふさわしい、よりオープンな市場へと「長城」の高さを調整すべき時期が来ているのではないだろうか。

【プロフィル】森山博之

 もりやま・ひろゆき 早大卒。旭化成広報室、同社北京事務所長(2007年7月~13年3月)などを経て、14年より旭リサーチセンター、遼寧中旭智業有限公司 主幹研究員、57歳。大阪府出身。

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