来年の金相場、新興国需要がカギ 中国で官民“爆買い”…上昇推進力に

2015.12.31 06:34

 「貯蓄から投資へ」の動きが加速する中、安全資産として知られる金に魅力を感じる投資家が増えている。9年半ぶりとなる米国の利上げや、中国やインドによる金の爆買い、テロの拡大懸念など市場環境が目まぐるしく変化する中、2016年の金相場はどうなるのか。

 足元の金国際価格は米ニューヨーク市場で1トロイオンス=1000ドル台と、欧州債務危機まっただ中の10年以来の低水準だ。

 15年の金相場を振り返ると、1月のスイス・フランの対ユーロ上限撤廃や8月の中国人民元切り下げなど、世界の金融市場に大きなショックが広がった局面では、リスクを避けたい投資家が金を買う動きが目立ったものの、全体としては売られやすい1年だった。米国の利上げ観測がくすぶり続け、金利を生まない金から、ドル建て資産などに投資マネーが流出していったからだ。

 特に、米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長が11月上旬、年内利上げを示唆する発言をしたのをきっかけにニューヨーク市場の金相場は売りが優勢となった。

 FRB政策手掛かり

 金とドルは相関関係にあることから、FRBの金融政策は金相場の行方を見る上での大きな手掛かりとなる。実際に利上げが始まったことで、16年の相場の焦点はFRBによる追加利上げのペースに移る。

 野村証券の大越龍文シニアエコノミストは「原油安で、来年も世界的にインフレが抑えられる見通し。利上げ後は金を売ってドルが買われやすくなる。金融市場が追加利上げをどう織り込むかによって、金価格は1トロイオンス=1000~1200ドルの間を行ったり来たりするだろう」とみる。市場で利上げが意識されると金相場は下がりやすく、利上げが実施されると回復するという具合だ。

 みずほ証券の津賀田真紀子シニアコモディティアナリストは「利上げでドル高圧力がかかることに加え、経済成長が鈍化している中国やインドの投資需要は今の勢いが続くとは考えにくい。原油安で採掘にかかるコストが下がる可能性がある」などと、金相場のマイナス要因を指摘し、1000ドルを割り込む展開を予想する。

 これに対し、経済アナリストの豊島逸夫氏の16年の上値予想は1400ドルと強気だ。利上げのペースに加え、豊島氏が重視するのは、中国をはじめとする新興国の金需要の動向だ。豊島氏は「中国では現在進行形で官民による金の“爆買い”が続いている。16年も金価格上昇の推進力として極めて重要な役割を果たすだろう」と分析する。

 国際通貨基金(IMF)によると、15年9月現在の公的セクターの金保有量で、トップ5に米国やドイツなどの欧米勢が顔をそろえる中、中国は6位(1708.5トン)、ロシアは7位(1352.2トン)にランクイン。9位の日本(765.2トン)を保有量で大きく上回る。

 人民元の裏付けも

 中国は今年7月に突如として金の保有量の公表を6年ぶりに再開。この間に50%以上も積み増していたことが明らかになった。金の調査機関ワールドゴールドカウンシルの日本代表、森田隆大氏は「中国はIMFの特別引き出し権(SDR)への人民元の採用を実現するため、人民元の裏付けとして金を積み増してきたのではないか」と解説する。中国の外貨準備高約3兆5000億ドルの内訳は7割がドル、2割はユーロ、金は2%に満たない。それでも規模が大きく、金相場への影響力は大きい。

 一方、ウクライナ情勢をめぐり、経済制裁を受けているロシアの中央銀行も金の積み増しを加速している。

 金はその時々の世界情勢を映し出すといわれる。16年は米国の利上げペースや人民元の動きに加え、地政学リスクを抱える新興国の動向にアンテナを張る必要がありそうだ。(米沢文)

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