日銀「勝負の年」…黒田総裁が連合の会合で初あいさつ「賃上げを!!」

2016.1.5 20:58

 労働組合の中央組織・連合が5日開いた新年交歓会に日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁が出席してあいさつし、「労働者側に(賃上げの)強い追い風が吹いている」と訴えた。金融政策を担う日銀総裁が連合の会合であいさつするのは初めて。企業が賃上げを抑制すれば、個人消費は回復せず、低迷する物価の反転上昇は遠のく。総裁の労組に対する異例のエールは今年の賃上げが日銀の大規模金融緩和の成否を決するとの危機感をあらわしているともいえそうだ。

(藤原章裕)

 日銀総裁と経団連会長は昨年、連合の新年交歓会に初めて出席。今年は黒田総裁が「物価と賃金は連動して上下する。物価の上昇に見合った賃金の上昇は日本経済の持続的な成長に不可欠。それぞれがやるべきことをしっかり果たしましょう」と賃上げの実現に向けて労組側に発破を掛けた。

 連合の神津里季生会長も「大規模緩和には是非論があるが、私たちはもうそこに踏み出している。デフレ脱却を日銀だけに任せていいはずがない。すべての経営者はこのことをひとごとと考えてほしくない」と同調した。連合は今春闘でベースアップ(ベア)と定期昇給分を合わせ4%程度の賃上げを求める方針だ。

 原油安で物価が伸び悩む中、日銀は29日に公表する経済・物価情勢の展望(展望リポート)で平成28年度の物価見通しを従来の1.4%から1%程度へ下方修正する公算が大きい。「28年度後半ごろ」とする2%の物価上昇目標の達成も難しくなりつつある。

 ただ、食料品など日用品価格は上昇が続くため、日銀は「賃上げが小幅にとどまれば、消費者は財布のひもをかたくしてしまう」と懸念する。連合への異例のエールは、「賃上げムードを盛り上げる日銀の奇策」(外資系証券エコノミスト)とみられる。

 日銀は昨年12月、大規模緩和の補強策として、設備投資や賃上げに積極的な企業の株式を組み込んだ上場投資信託(ETF)を年3千億円買うことも決めた。

 今春闘で大幅な賃上げが実現すれば、日銀は物価上昇率2%のメドをつけられるが、小幅な賃上げにとどまれば、追加緩和期待が高まるのは必至だ。黒田総裁もあいさつで「必要と判断すれば、さらに思い切った対応を取る用意がある」と追加緩和も辞さない姿勢を改めて示した。

 だが、日銀の現在の国債購入量は年80兆円。償還で消える分の買い替えを含めると120兆円に膨らむ。追加緩和の余地は乏しく、黒田総裁のかじ取りは厳しさを増している。

 「今年は勝負の年になる」

 経済界の賀詞交換会に出席した日銀幹部はこうつぶやいた。

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