【トランプ大統領就任】TPP離脱表明、2国間交渉で日本にさらなる市場開放要求も

2017.1.21 11:37

 トランプ米新大統領が20日の就任初日に環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)からの離脱を正式表明したことで、新政権が掲げた新たな2国間交渉を通じて日本は露骨な市場開放を要求される恐れがある。農産品や先端医薬品などでTPP以上の大幅な譲歩を飲まされれば国内で強い反発が起きるのは避けられない。(田辺裕晶)

 「各国と友好関係を結びたいが、自国の利益を最優先にする権利があることを認めてほしい」。トランプ氏は20日の就任演説で保護主義の姿勢を鮮明にした。

 今後の通商交渉では、TPPなど多国間の枠組みではなく、「雇用や産業を取り戻す公平な2国間協定」を結ぶよう各国に求めていく方針だ。トランプ氏がいう「公平」とは、世界最大の経済力を背景に、米国企業や労働者に有利な協定を相手国に要求することを意味すると見る向きが強い。

 また、トランプ氏は北米自由貿易協定(NAFTA)を見直し、米国外に出た企業の製品に対し高い関税を課すと表明している。メキシコ新工場新設計画を批判されたトヨタ自動車を始め、日本企業は貿易摩擦の再燃に翻弄されそうだ。

 米国内では2国間交渉を見据え、既に業界団体が動き出している。米最大の農業団体ファーム・ビューローなど16の農業団体は今月6日、トランプ氏に「米国の農業者が競争できる新しい公正な貿易協定が必要」と指摘する書簡を送った。急成長するアジア太平洋地域を取り込もうと日本を名指しで標的に挙げ、農産品の市場開放を求めている。

 また、米製薬業界は国民皆保険の日本市場を虎視眈々と狙う。TPPではバイオ医薬品の臨床試験データを開発者が独占できる保護期間を8年間で共通化し、各国が安価なジェネリック医薬品(後発薬)を入手しやすくしたが、2国間交渉に入れば長期の保護期間を認めさせるようロビー活動を強めるとの見方もある。

 一方、経済官庁幹部は「米国と2国間交渉をしたら政権が持たない」と深刻な表情で漏らす。2国間交渉では、米国の圧力を他国と足並みをそろえてはね返す多国間交渉の戦術が使えず、TPP合意以上の譲歩を迫られる恐れがある。

 このため、政府は交渉入り自体を避けたい考えだが、米新政権に再三迫られれば「どこまで抵抗できるか分からない」(通商筋)と不安が広がっている。

 ただ、トランプ氏は日本だけでなく、中国やメキシコなども名指しで批判。特定企業に高関税を課すなど懲罰的措置を発動すれば、世界貿易機関(WTO)協定違反で各国と訴訟合戦になる可能性がある。政府は米新政権に対し保護主義の姿勢をいさめつつ、標的になった各国との共闘も視野に入れて、通商戦略を立て直す必要がありそうだ。

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