金正男氏殺害 親族であっても無慈悲に処断する…金正恩政権「粛清」の歴史

2017.2.15 10:35

 【ソウル=名村隆寛】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男(ジョンナム)氏(45)がマレーシアで殺害されたとの情報にからみ、北朝鮮の工作員の犯行の可能性が浮上しているが、金正恩政権の北朝鮮では十分にあり得ることだ。

 北朝鮮では2013年12月に金委員長の叔父、張成沢(チャン・ソンテク)国防副委員長(当時)を突然、全職務から解任、党から除名し、処刑した。

 当時、朝鮮労働党の政治局拡大会議では、「党内に潜んでいた偶然分子、異色分子が分派活動により自ら勢力を拡張し、党に挑戦する事件が起きた」ことに関連し、「張成沢が行った反党・反革命的宗派行為、反動性が暴露された」とした。張氏が「金委員長の命令に従わないという反革命的な行為を行った」ことが処刑の理由だった。

 張氏は金正日総書記の妹、金敬姫(ギョンヒ)氏の夫で、党を中心に活動。中国や韓国を訪問したこともあり、北朝鮮では数少ない「外部を知る人物」であった。11年12月の金総書記の死後は敬姫氏とともに、金委員長への権力移行に努めてきた。

 親族で後見人であった張氏を処刑した金委員長の手法を、韓国政府は朴槿恵(パク・クネ)大統領自らが「恐怖政治」と呼び非難していた。しかし、金委員長にとっては自らに意見する者、逆らう者は親族であろうが冷酷なまでに消し去るべき存在なのだ。その後も側近幹部の粛清や更迭の情報は当然のように続いた。

 異母兄に当たる金正男氏は、張氏とは親密な関係だったとされる。日本など海外メディアにもインタビューなどで、金委員長の世襲にも言及していた。さらに、北朝鮮との関係が悪化する中国が長らく金正男氏の背後におり、中国国内で半ば“自由”に行動していたことが、金委員長の逆鱗に触れた可能性がある。

 北朝鮮当局の関与、金委員長の“暗殺指令”があったのであれば金委員長は金正男氏を囲い続けてきた中国の反発を見越した上で、兄の処断を実行したことになる。金正恩政権の維持のための“金正恩恐怖統治”の歴史は進行途中であり、今後も続きそうだ。

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