【高論卓説】カタール断交から2カ月余り 国際舞台の攻防、解決への道筋見えず

2017.8.8 05:00

 サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、エジプトの4カ国が6月5日にカタールとの断交や他の措置を打ち出して2カ月余りが経過した。この間クウェートや欧米、トルコが調停を行ったが実を結ぶことなく今日を迎えている。

 約9週間を振り返れば、サウジなどがカタール断交措置などを明らかにしてからの当初の4週間は、イランとの断交や他国批判を繰り返すアルジャジーラ衛星放送の閉鎖、テロ・過激主義支援の終焉(しゅうえん)など13項目の和解条件を求めた4カ国側が押し気味であった。

 しかし、カタールが回答期限の7月3日に条件をのめないとして以降の5週間は、むしろ4カ国側が受け身に回っている。特に調停国クウェートを皮切りにサウジ、カタールを歴訪し4カ国の外相と会談したティラーソン米国務長官が同11日、カタールと「テロ対策覚書」に合意して以降、風向きは大きく変わった。これらの会談の一部にはマーク・セドウェル英国安全保障顧問も加わり、各国の主張を聞くとともに事態の早期収拾に向けた説得に当たった。

 同長官はカタールとの合意調印後、ムハンマド外相との共同記者会見で「米国には地上からテロをなくすという目標がある」「米国とカタールは、テロ資金源の追跡、情報の収集・共有、中東と自国の安全化に向け一層協調していく」「カタールが覚書合意の最初の署名国となった」と述べ、カタールの英断を称賛している。

 注目されるのは同長官が別途、「サウジの要求の一部は議論に値するが全てを同時に実行することはできない」「テロ資金支援問題で手の汚れていない国はない」と述べたことである。発言の前段はアルジャジーラ封鎖要求などがカタールの主権の侵害に当たる恐れがあることを指し、後段はサウジやUAEもシリアほかでイスラム過激勢力を支援していることを指している。米国は、焦点をテロ・過激派への資金供与を含む支援の終焉に絞り込むことでサウジ側とカタールの合意を引き出して当面の危機を終了させ、併せてテロ消滅というトランプ政権の主要外交目標の一つを達成してしまおうというわけである。

 米英の強い圧力を受けたサウジなどは7月18日、過激主義・テロと戦う誓約、対過激主義者・テロリスト資金支援の停止および安全地提供の停止、扇動的演説の中止などからなる6項目をカタールに新提示し、同意を求めた。内容が明らかに米国主導の調停工作に沿ったものであったことから、残る課題はテロや過激主義の定義、サウジなどとカタールの双方が確約する方向での合意作りに移るとの期待も一部では高まった。

 だが外交戦で勝利しつつあると見たカタールが7月24日、「断交などの封鎖解除が対話開始の条件」と述べ、強気の姿勢に転じたため4カ国側も姿勢を硬化させた。具体的には同30日の外相会議でカタールによる以下の受け入れが対話開始の条件と決定している。すなわち、テロ・過激主義支援の終焉宣言、他国内政不干渉の確約、対イラン断交、アルジャジーラ閉鎖を含む13項目要求の応諾である。特に、いったん取り下げたと思われた対イラン断交やアルジャジーラ閉鎖の要求を持ち出したことは、解決への道筋を再び見えにくくしてしまった。この夏以降の双方の国際舞台での攻防が注目される。

                  ◇

【プロフィル】畑中美樹

 はたなか・よしき 慶大経済卒。富士銀行、中東経済研究所カイロ事務所長、国際経済研究所主席研究員、一般財団法人国際開発センターエネルギー・環境室長などを経て、現在、同室研究顧問。66歳。東京都出身。

閉じる