中国では逆風、どうなる新型iPhone 「国産を支持する! アップルは二度と買わない」

2017.10.10 06:37

 スマートフォン「iPhone(アイフォーン)」を抱える米IT大手アップルが苦境に陥っている。直近の中国市場におけるスマートフォンの出荷台数シェアは4位から5位に転落。中国で規制対象のインターネットサイトを閲覧する際に使用されるアプリの一部配信を停止するなど、当局の要請に添った取り組みを次々と打ち出すなど“対中戦略”の建て直しに躍起になっている。9月中旬に発表した新機種「アイフォーン8」などの投入で巻き返しを期すが、中国メディアには「ジョブズは生涯一度も中国に来なかった」といった不満げな反応が目立つほか、中国政府による愛国主義教育の成果かネット上でも「国産スマホを支持する!アップルは二度と買わない」といった“逆風”が吹いている。

 上位4社を中国勢が独占

 「小米(シャオミ)がアップルを逆転した」

 8月上旬、米調査会社「IDC」が4~6月期の中国市場におけるスマホ出荷台数を発表すると、中国ネットメディアも一斉に反応した。アップルの出荷台数が前年同期比7・6%減800万台に落ち込み、1420万台のシャオミ(小米科技)に抜かれた。アップルの市場シェアは7・1%と5位で、4位のシャオミ(12・7%)を下回る結果に。首位はシェア21・0%の華為技術(ファーウェイ)、2位は「OPPO(オッポ)」を展開する広東欧珀移動通信(17・9%)、3位は「vivo(ビボ)」の維沃移動通信(14・4%)と上位4社を中国勢が占めた。中国市場全体は前年同期比0・7%減と振るわない状況だが、中国勢4社はいずれも前年同期比で販売台数を伸ばす躍進ぶりを見せた。それだけに、上位5社で唯一マイナスとなったアップルの低迷が際立つ形となっている。

 フリークを生んだアップルブーム

 アップルが中国スマホ市場に参入したのは2009年。中国通信大手、中国聯通と組んでアイフォーン3GSを投入し、中国語で「果粉(グオフェン)」と呼ばれるアップルフリークを生み出すブームを起こした。アイフォーンの新機種発売日には直営店「アップルストア」の前などに長蛇の列ができるのが恒例となった。今でもブランド志向が強い富裕層や中間層の間では依然として人気が高いものの、国産スマホメーカーの成長によりアイフォーンの退潮が指摘される。米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)によると、アップルの市場シェアは14年終盤の推計16・5%から約7%にまで落下。3年弱の期間で半減している計算だ。

 最新機種には中国市場対策も?

 このような苦境を受け、アップルは中国市場の建て直しにむけて態勢を整えている。

 今年9月に新たな基本ソフト(OS)として「iOS 11」を提供開始したが、このOSでは中国ユーザーを意識した機能が盛り込まれている。一例を挙げると「QRコード読み取り」の機能だ。従来は、これまでアイフォーンの純正カメラアプリではQRコードを読み取ることができず、わざわざアプリをダウンロードする必要があった。現在中国では、QRコードを使ったスマホの電子決済の利用が猛スピードで拡大中だ。中国ネット大手の騰訊(テンセント)の「ウィーチャットペイ(微信支付)」と、アリババ集団の「アリペイ(支付宝)」などが電子決済サービスを提供しており、北京などの都市部では「スマホ決済無しには生活できない」と言われるほど。それだけに、アップルが新たなOSでQRコードに標準対応したことは中国市場対策だとみられている。

 アップルの「言論の自由を脅かす措置」を非難

 一方、中国当局の意向に添った形での“態勢整備”も目立つようになっている。

 「あなたのアプリは中国アップストアから削除されます」

 7月下旬、中国でVPNサービスを提供する業者に、アップル側から通知が一方的に送られてきた。

 アップルは、中国で「VPN(仮想私設網)」アプリの一部についてアップストアでの配信を停止した。中国では、米グーグルの「Gメール」や「フェイスブック」、「LINE(ライン)」といったネットサービスが規制対象となっている。そのためVPNを使わなければ、これらのサービスを利用することができない。中国当局はVPNサービスに関する規制を強化しており、アップルの対応はこれに呼応した措置だ。英BBC放送(電子版)によるとアップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は「ほかの国々ででも、われわれは法律を守ってビジネスをしている」と変更理由を説明した。

 ただ、配信停止対象となった業者のひとつであるエクスプレスVPNは、今回のアップルの措置は「最も思い切った措置だ」としたうえで「言論の自由、市民の自由を脅かすこれらの措置を強く非難する」と自社サイト上で糾弾した。

 また、アップルが中国国内に初のデータセンターを設置すると7月中旬に報じられている。ロイター通信によると、データセンターは中国南部の貴州省で、現地のIT企業と提携して設置するという。中国では6月に「インターネット安全法」が施行された。同法は、ハッカー攻撃から国家安全などを守ることを目的としているが、国内外の企業に利用者の通信記録を中国国内に保存することを義務付けた。施行前から日本や欧米の駐中国大使が、経済活動が阻害される恐れがあると懸念を示していた。

 「アップル行列神話の終了」

 このように中国市場での態勢を整え、アップルは満を持して最新のスマホ機種を投入した。

 9月22日、アイフォーンの「8」と「8プラス」だ。昨年発表した「7」と「7プラス」のバージョンアップで、無線充電機能や、背面にガラス素材を採用したことなどが特徴となっている。

 ただ、中国メディアは新製品の滑り出しについて厳しい状況を伝えている。

 「アップル行列神話の終了」

 中国の証券日報(電子版)は、アイフォーン8の発売後の様子を伝えた。中国では、アイフォーンの新機種が発売されるたびに転売屋が行列を作る光景が一般的だが、アイフォーン8発売当日には各地でこのような熱気がみられなかったと証券日報の記事は伝えている。ネット上で予約ができるため行列ができなかったという見立てもあるが、「供給能力が大幅に引き上げられたのではなく、需要が明らかに弱くなった」という独立系の通信アナリストの分析を証券日報は紹介している。

 「アイフォーン6以降、4世代同じ様子。買い替える欲求がまったくない」

 北京の有力紙、新京報(電子版)も、このようなネット民の感想を伝えている。

 北京のIT街として知られる中関村にいたある転売屋は「中関村に7~8年いるが、アイフォーン発売初日に発売価格を割り込むという状況は初めてだ」と新京報の記者に“不人気ぶり”を証言した。

 また、アップルに対する積年の恨み節もみられる。

 「ジョブズは生涯一度も中国に来なかった」

 アイフォーン新機種発表直後に新京報(電子版)が報じた記事は、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏(1955~2011年)は一度も訪中しなかったが、その後任のクック氏は既に11回も訪中しているとのデータを紹介した。

 この記事では、過去のアイフォーンの新機種では、発売時期がかなり遅かったと指摘。「中国はずっと英領バージン諸島やケイマン諸島などと並列の3、4級市場と当時のアップルに見なされていた」とわざわざ振り返ってみせている。

 「中国は強くなったのだ」

 ネット上では、より厳しい声がみられる。

 「アップル神話はもはや終わりだ。時代遅れだ」

 「誰がいまだにアップルを使っているというんだ」

 このような“アップル離れ”の宣言とともに、「国産スマホがアイフォーンを超える性能を持つようになっている」「アップルよ、中国は強くなったのだ」「ファーウェイの携帯は素晴らしい。国産を支持しよう」など中国産スマホを支持する愛国的な声も目立つ。「アップルは、もうひとつのノキアだ」というように、かつて世界の従来型携帯電話(ガラケー)市場を席巻したフィンランドのノキアがスマホの登場で退潮したような道をアップルがたどるという見立てもあった。

 アイフォーンXで富裕層が動くか

 ただ、アイフォーンの最新機種について、前述の証券日報の記事は「本当の主役はアイフォーンX(テン)」だと分析する。中国でも11月3日に発売されるアイフォーンテンは、初代アイフォーンから10年の節目に合わせた高価格モデル。顔による個人認証システムなどを搭載。「最先端、高級モデル好き」という中国人の消費魂をくすぐる商品といえる。ただ、最高スペックのモデルは9688元(約16万5000円)という高価格がどこまで受け入れられるか、中国の富裕層、中間層の動向が注目される。

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