【高論卓説】日本経済、「死角」は地政学リスク 北、中東の懸念消えない偶発的衝突

2017.11.10 05:59

 日本経済にとって、アベノミクス・スタート直後の2013年以来の追い風が吹いている。世界経済が回復基調を続ける中、米欧日の中央銀行の政策スタンスの「差」を意識した日本株への資金流入が背景にある。米長期金利(10年債利回り)の上昇が緩やかであるため、景気拡大の波は長期化しそうで、その点でも日本経済にはプラスとなる。「死角」なしに見える前途にあるリスクは、北東アジアと中東の地政学リスクではないか。

 今年は夏場を迎えても、国内勢の日本株に対する見方が慎重だった。バブル崩壊後の高値を抜け、約25年ぶりの水準まで日経平均株価が買い進まれるとみていた参加者は、あまりいなかったと言っていいだろう。

 米経済の拡大は、各種の指標を見てもはっきりしており、年央から欧州経済の復調も鮮明化。中国経済の堅調な需要動向もあいまって、だれの目からみても、足元における世界経済の回復基調ははっきりしてきた。

 そこに長短金利の操作を行う日銀の「イールドカーブ・コントロール」(YCC)政策の継続効果が重なる。米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ路線と欧州中央銀行(ECB)の出口戦略模索が並行して進む中で、日銀の緩和スタンスは際立っている。

 世界の需要が強く、超低金利政策が長期化すると分かっている国の株は「買い」と見る参加者が多くなるのは、ある意味で「教科書」通りの展開といえる。

 さらに最近、欧米で注目されているのは、景気が良くなっても物価が上がらず、長期金利も急反発しない現象だ。FRBが来年に入って1回に0.5%の利上げを強いられるとみている参加者は、ゼロだ。

 逆に言えば、政策的な「圧迫」なしに景気拡大が進むので、予想以上に拡大局面が長期化する可能性がある。世界経済の拡大が長期化すれば、超低金利を続ける日本にとって、強い追い風となるだろう。だが、どこかにリスクが潜んでいると見た方が合理的だ。では、そのリスクはどこに隠れているのか。

 私は、北東アジアと中東の地政学リスクが「火種」になる可能性を懸念する。北東アジアでは、やはり北朝鮮情勢から目が離せない。北朝鮮は9月15日のミサイル発射以降、動かずにいる。

 ただ、トランプ大統領は「全ての選択肢がテーブルの上にある」と繰り返し、軍事的オプションの行使を否定していない。偶発的な衝突が、全面的な軍事紛争に発展するような事態になれば、世界の市場は全く織り込んでいないために、予想外の大変動に直面しかねない。

 また、中東でも今月4日、イエメンの反体制派がサウジアラビアに弾道ミサイルを発射。サウジはイランが武器を提供したと主張。イランが関与を全面的に否定する声明を発表するなど緊張が高まっている。

 相場にはリスクがつきもの。今後は、ささいな軍事情報にも目を向けて、冷静に情勢分析するのが、いいかもしれない。

【プロフィル】田巻一彦

 たまき・かずひこ ロイターニュースエディター 慶大卒。毎日新聞経済部を経てロイター副編集長、コラムニストからニュースエディター。58歳。東京都出身。

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