【高論卓説】学部譲渡を容認、文科省が新方針

2017.11.30 05:59

 ■笛吹けど踊らず、危機意識の低さに警鐘

 日本私立学校振興・共済事業団の資料によると、2024年以降、18歳人口は100万人台へと減少する。高等教育機関への進学率は社会状況によって異なるため予想できないが、大学経営は厳しくなることだけは事業団も推考し、各大学に対して策を練るよう喚起する。

 18歳人口が120万人の今年ですら、私大の約4割、私立短大の約7割が入学定員未充足である。それゆえ、赤字経営の私大は3割を超す。現状のままでは多くの私大は生き残れない。

 それで文部科学省は、学校法人の合併、大学の合併を奨励するようになった。だが、各大学には建学の精神があり、母校の消滅に反対する同窓会があって、なかなか合併は難しい。赤字であれば、教職員の給料を下げ、教員の研究費を減額すれば、数年間は維持できたとしても、やがて破綻を招く。

 私は日体大理事長として、いくつかの大学法人に合併を打診している。しかし、当然ながら一筋縄ではいかず、成功しそうな雲行きにない。理事長や学長には定年や任期があり、己の代に大変革をして同窓会からの反逆者なる汚名、烙印(らくいん)を回避するためか、赤字経営が続いていても動こうとはしない。

 一向に進まない大学の合併劇に業を煮やしたのか、文科省は新しい方針を打ち出した。経営効率化や再編を促すために、私大の学部を他大学に譲渡することを容認するという。「学部の切り売り」を認め、大学再編へのステップにしたいと考えているかに映る。具体的な制度化については、11月から中央教育審議会で検討を始めた。

 学校教育法は、学校法人が大学全体を譲渡するケースは規定しているものの、学部だけの譲渡は明記しておらず、現在は認められていないから、文科省の焦りぶりは尋常ではない。笛吹けど踊らず、大学の破綻予想が現実味を帯びる昨今、大学法人への警鐘であると同時に、大学への経常費など補助金の削減の狙いも見え隠れする。

 困憊(こんぱい)する「東芝」を想起させられるが、経営が行き詰まった大学が、1つの学部を切り離して他大学に売却することを認める策は、会社経営を彷彿(ほうふつ)とさせられる。

 教員はともかく、図書館や学部の持つ研究所、学部職員、他施設やキャンパスの譲渡までも想定しているから、最終目標は再編・合併であるものと受け止めている。

 ただ、キャンパスまでも購入するとなると多額の費用が必要であるし、問題はそのキャンパスがどの地域にあるかだ。さらに東京23区内にある大学が、地方の私大の学部を譲渡されて東京へ移す場合、学生の東京一極集中を避けたい文科省は、いかに判断するのだろうか。今後の議論に注目したいと思う。

 日体大は「身体にまつわる文化と科学の総合大学」であるがゆえ、いまだ設置していない「栄養学部」「薬学部」「医学部」「歯学部」「看護学部」などは大学の設置理念に合致するため欲しい学部である。中教審の取り組みに期待するにつけても、赤字大学に対する文科省高等教育局の積極的な指導と誘導を希望する。

 大学経営者にも目標や夢がある。日体大は学生数7000人。大規模大学は8000人以上である。大規模大学まであと一歩だ。合併が有効策だと認識し、縁ある大学を求めている。文科省の方針が大学経営者には馬耳東風。親の心、子知らず、危機意識の低さに驚くしかない。

【プロフィル】松浪健四郎

 まつなみ・けんしろう 日体大理事長。日体大を経て東ミシガン大留学。日大院博士課程単位取得。学生時代はレスリング選手として全日本学生、全米選手権などのタイトルを獲得。アフガニスタン国立カブール大講師。専大教授から衆院議員3期。外務政務官、文部科学副大臣を歴任。2011年から現職。韓国龍仁大名誉博士。博士。71歳。大阪府出身。

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