【専欄】「性の都」東莞の変貌ぶり IT関連の先端産業が誕生

2018.6.19 06:15

 友人のAさんが広東省・東莞(とうかん)にある日中合弁企業での2年余りの勤務を終えて帰ってきた。さっそく会って話を聞いてみると、「東莞はこの数年間ですっかり変わった」と言う。

 かつて東莞は、中国華南地域における加工貿易の最大拠点として脚光を浴びたが、労働者の賃金高騰によって優位性を失いつつあった。また、売春天国のため「性の都」との汚名も着せられていた。それが東莞に滞在していた数年間で、すっかり面目を一新したと言うのである。

 東莞ではかつて加工貿易が隆盛し、世界に家具や靴などを輸出していた。ところが賃金の高騰に伴い、多くの外資企業が中国内陸部やベトナムなどに移転していった。このため東莞は域内総生産(GDP)伸び率も減速し、2000年代初めには前年比伸び率が6%台に落ちたこともあった。このころは中国の多くの地域が10%を上回る高度成長を続けていた中で、東莞の凋落(ちょうらく)ぶりは目に余るものがあった。

 家具や靴などの輸出は大幅に減り、例えば昨年の靴輸出はわずか161億元(約2800億円)でしかない。輸出全体に占める加工貿易の割合は、10年前にはほぼ9割を占めていた。昨年はなんとか50%を死守していたが、今年はついに50%を割り込みそうである。

 ところがGDP伸び率は過去数年、8%台を維持していて、全国平均をやや上回る勢いなのだ。Aさんに理由を聞いてみると、加工貿易に代わって、IT関連の先端産業が急速に伸びてきたからと言う。

 隣接する深センが大化けしたことはよく知られている。華為(ファーウェイ)、騰訊(テンセント)、比亜迪(BYD)、中興通訊(ZTE)といったハイテク企業が相次いで誕生し、ベンチャー支援のプラットフォームも数多く登場している。こうした深センの勢いが東莞にも少しずつ入り込んできたようだ。

 その代表がOPPO(オッポ)である。昨年のスマートフォン出荷台数では、韓国サムスン、米アップル、華為に次ぐ第4位のシェアを確保した。オッポの工場は東莞にある。東莞と言っても深センに近く、この辺りは賃金も比較的安い。

 Aさんによると、習近平政権になってから、性風俗産業への大規模な摘発が行われ、すっかり町の雰囲気も変わってしまった。いまでもネオンは消えていないが、ビルの中ではベンチャー企業の若者たちが明日の成功を目指して研究に没頭しているという。(拓殖大学名誉教授・藤村幸義)

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