【政界徒然草】5%還元の消費税対策 岸田氏、ポスト安倍には吉凶どちらか

2018.12.7 01:00

 安倍晋三首相(64)は来年10月の消費税率引き上げに伴う経済対策に関し、中小型店でキャッシュレス決済を行った場合のポイント還元を増税相当分の2%を大きく上回る5%とする意向を示した。自民党の岸田文雄政調会長(61)が党の提言を申し入れた際の表明で「ポスト安倍」を目指す岸田氏に花をもたせたといえる。一方、5%還元にはバラマキ批判があり、岸田氏は財政再建路線からの転換と受け止められる懸念もある。次期首相の座を狙ううえでは吉と出るか凶と出るか…。

 「ポイント還元について、十分な還元率を確保すべきだとの党の提言を行ったが、それを受けて首相から、2020年(東京)五輪までの9カ月、還元率5%で検討したいという言葉があった」

 11月22日、官邸で増税対策に関する党の提言を首相に提出した後、岸田氏は記者団にこうアピールした。説明に驚いた複数のメディアが即座に速報を打ち、同日は「5%」の話題でもりきりとなった

 ポイント還元は、買い物客が中小の小売店でクレジットカードやQRコードなどで決済した場合、後で使えるポイントを還元するものだ。当初は2%程度とみられていたが、首相の意向を受け、政府は5%と破格の還元率で行う方向で準備を進める。増税前後の駆け込み需要や反動減を減らし、景気や消費が低迷するのを防ぐ狙いがある。

首相が花をもたせた?

 増税時の経済対策をめぐっては、連立を組む公明党が先行する形で、購入額を上回る買い物ができる「プレミアム付き商品券」などを提案し、政府が採用する方向になっていた。それだけに、自民党も存在感をアピールする必要があった。

 党政調関係者は「首相は(同月26日の)政府の会議で5%還元を表明しても良かったのに、岸田氏の申し入れの際にあえていってくれた」と歓迎する。

 自民党の増税対策は、岸田氏が本部長を務める経済成長戦略本部がまとめた。同本部は岸田氏が政調改革の一環として、総裁直属機関の日本経済再生本部を廃止して立ち上げたものだ。党として経済政策や成長戦略などを検討し、政府に提言する役割がある。

 首相は平成24年の第2次政権発足以来、経済成長と財政再建の両立を目指し、消費税率引き上げには慎重な立場をとってきた。実際、増税延期を2度決断した。国民も依然として増税には反対が多い。産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の11月の合同世論調査でも、消費税率10%への引き上げについて、反対が49・8%で賛成(47・8%)を上回った。

 自民党内にも「(岸田氏が)首相を目指すなら、役人に言われるがまま財政再建を訴えるのではなく、国民に支持されるよう成長戦略も打ち出す必要がある」との声がある。

「財政再建打ち出しを」

 一方で、岸田氏が5%還元を公表したことに、否定的な意見も少なくない。

 岸田氏が会長を務める宏池会(岸田派)の議員は「安倍さんにいわされたのは失敗。5%還元はやりすぎで、減税に近い。『ポスト安倍』としてアピールするなら財政再建路線を打ち出した方がよかった」と悔しがる。

 そもそも、宏池会は伝統的に財政規律を重視する議員が多い。岸田氏自身、少子高齢化が進む中で持続可能な財政の必要性を訴え、周囲から首相と一線を画す財政再建派とみられてきた側面もある。

 来年の消費税率10%の引き上げにあたっては、生活必需品の税率を据え置く軽減税率が導入され、税収の一部は幼児教育の無償化に回される。消費や景気への影響は8%に引き上げた際より少ないとの見方があり、増税分の2%を大きく上回る5%還元は参院選などを見据えたバラマキ政策との批判がつきまとう。

 こうした批判に、岸田氏は「大型店や大企業は(消費税)還元セールなどができるが、地域の中小店は対応が難しく、支援を行わないといけない」と説明する。そのうえで「目的も対象も期間も限定したもので、財政にも留意した、消費税をスムーズに引き上げるための1つの方策だ」と理解を求める。

 竹下派会長の竹下亘前総務会長(72)など、党内にも財政再建を重視する議員は少なくない。

 次期首相に意欲を見せる岸田氏だが、いかに独自カラーを打ち出しつつ、首相はじめ他派閥の支持を獲得していくか。次期総裁選で頂点を極めるための課題は多い。

(政治部 田村龍彦)

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