【道標】米のイラン原油禁輸に独自介入を 日本、緊張緩和へ行動すべき時

2019.4.29 09:45

 トランプ米政権は5月2日からイラン原油の全面禁輸措置を実施し、違反すれば制裁を科すと警告した。昨秋以降、適用を猶予されていた日本も対象となり、高度成長を支えたイラン原油が1979年のイスラム革命以来、初めて止まる。イランは反発しており、地域の緊張が高まる恐れがある。米国の同盟国で、イランとも良好な関係を築いてきた日本は独自の立場を生かし「誠実な仲介者」として緊張緩和へ尽力すべきだ。

 この1年、イランに対するトランプ政権の圧力は増大している。昨年5月にイラン核合意から離脱後、12項目の「対米屈服要求」を突き付け、オバマ前政権が停止した制裁を再発動した。11月には日本など8カ国・地域を除く各国にイラン原油の輸入停止を求め、今回の全面禁輸措置に移行した。今年4月にはイラン軍の一角を担う革命防衛隊をテロ組織に指定した。

 米国の狙いは、国際社会や中東地域でイランを孤立させ、経済を支える原油収入を断ち、国力をそいで自分たちに歯向かう行動を取らせないようにすることにある。

 イランは米国と敵対し、米同盟国イスラエルの存在を否定する。地域大国だけに、路線変更させない限り、自らの思い描く秩序を中東に構築できないと米国は考える。

 圧力強化策はそうした思考の所産である。イランの体制転換を狙うボルトン大統領補佐官や、12項目要求を発表したポンペオ国務長官らがその中心にいる。

 地域情勢の変化も米政策を後押しする。イランは近年、内戦下のシリアに部隊を送り込んだり、傘下の民兵組織への支援を拡大したりし、影響力を強めてきた。

 こうした行動は周辺国に脅威を与え、反発を招いている。イスラム教スンニ派の盟主サウジアラビアとイスラエルの急接近は、その一例だ。以前なら考えられない動きで「イラン包囲網」形成の条件が整っている。

 こうした中、イランの国民生活は再制裁に伴って逼迫(ひっぱく)してきた。インフレが高進しているのに給料は上がらず、民衆の不満が高まっている。「もう一押し」というのが米側の本音だろう。

 イランは対抗し、ペルシャ湾の出入り口にある原油輸送の大動脈ホルムズ海峡封鎖をちらつかせる。実際に行動に移せば軍事報復されかねず、今は威嚇の色彩が強い。しかし、ペルシャ湾では米軍と革命防衛隊の艦艇が多数行き交う。接触など不測の事態が起こり、エスカレートする恐れは排除できない。緊張状態が長引くことは好ましいことではない。

 だからこそ、日本の果たせる役割がある。米国には「一方的に物事を進めるやり方は不満を生み、国際社会の長期的安定にはつながらない」と言い続けるべきだ。

 イランには「自国だけでなくイスラエルやサウジの安定も大切。それぞれの脅威が低下しなければ、地域全体の安定が成り立たない」と伝え、自制を促す必要がある。

 第二次大戦後、日本は米国と同盟を結んだ。イランとも独自のエネルギー外交を通じ、良好な関係を保ってきた。現在はイスラエルやサウジとの関係も良い。

 日本はペルシャ湾岸地域にエネルギーを依存する。混乱が生じれば、安定供給が損なわれかねない。各当事国と話ができる有利な立場を踏まえ、行動すべき時である。

【プロフィル】坂梨祥

 さかなし・さち 日本エネルギー経済研究所中東研究センター長代行。1971年、東京都生まれ。東大大学院修了。専門はイラン政治。在イラン日本大使館専門調査員などを経て2017年現職。 

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