法人・都市部から個人・郊外に 新型コロナで変わるカーシェア

2021.1.4 06:00

【経済インサイド】

 新型コロナウイルスの感染拡大による人の移動の変化を機に、カーシェア業界が対応を模索している。テレワーク普及などもあって都市部を中心とした法人利用や観光客利用が振るわない一方、自宅を活動拠点とする会社員を含めた個人会員は増加。公共交通機関を敬遠したカーシェア通勤など新たな利用シーンも登場しており、各社が取り組みを加速させている。

 東京メトロ南砂町駅から15分ほど歩いた住宅地の一角。コインパーキングの敷地内に去年の8月からカーシェア用の小型車が出現した。オリックス自動車のカーシェア拠点。すでに500メートル先で別拠点が稼働中だが、双方とも利用は順調だ。

 担当者は「マンション開発が進む住宅地などでニーズが急増している。新型コロナの感染拡大以降、近距離を何回も乗る人が増え、利用者の居住圏内に拠点を増やせば、需要を取り込める」と意気込む。

 消費の流れがモノの所有から利用へと進む中、カーシェア市場は拡大傾向だ。富士経済によると、令和元年に470億円だった国内市場は12(2030)年には9・1倍の4300億円にまで広がる見通しだ。年間の延べ利用者もレンタカー需要を取り込みながら12年までの10年間で約10倍に達するとみられている。

 ただ成長までの道筋は修正を余儀なくされている。新型コロナの感染拡大で人の動きが変化。テレワーク導入が進み、企業活動における人との接触機会が減ったほか、観光需要も大幅に減少。特に政府の緊急事態宣言があった去年の4、5月は「かなり利用が減った」(大手)という。

 オリックス自動車の中村健太郎カーシェアリング部長は「これまでなら都市部の駅前などに拠点を構え、平日は法人需要、休日は観光客利用と切れ目なく利用してもらうビジネスモデルが重視されてきたが、新型コロナで変わった」と局面変化を分析する。

 一方、新規登録会員は増加傾向にある。ディー・エヌ・エーは去年の9月、運営する「エニカ」の会員数が35万人に達した。去年の7、8月の新規登録者数は過去最高で、新型コロナ感染防止のために電車通勤などを避けようというニーズや、自宅生活を充実させるため、カーシェアデビューするというケースが増えている。

 日本総合研究所創発戦略センターの井上岳一シニアスペシャリストは「日本の移動インフラは都市部への通勤を想定し、公共交通の大動脈を軸に据えた設計になっていた。だが住宅地に滞留する人口が増え、大動脈ではカバーできない移動需要が生まれている。その空白をカーシェアが埋めている」と分析する。

 こうした利用者はカーシェアを日常的に活用するケースも多く、ヘビーユーザーとなる可能性を秘める。「カレコ・カーシェアリングクラブ」を運営する三井不動産リアルティの調査では、去年の4月以降に入会した会員の利用目的(複数回答)は、レジャーやドライブと並んで大型商業施設の買い物(41・0%)や近隣での買い物(39・0%)も上位の一角を占める。

 変化に対応すべく、各社は従来のビジネスモデルに縛られない柔軟なサービスで需要を取り込む。

 日産自動車は平日午前6時から午後12時直前まで1回3千円で利用できる平日定額料金プランを開始。通勤やテレワーク空間として利用する需要に応える。タイムズカーシェアを運営するパーク24グループは曜日限定で、指定場所に配車する法人向けサービスを始めた。働く拠点が分散する企業が車両を確保できる。

 またNTTドコモは、複数のカーシェア事業者のサービスを横断的に利用できるプラットフォームサービス「dカーシェア」の利用可能事業者に、トヨタ自動車のサービスを加えた。自宅近くで利用できる車両の選択肢を増やせる。

 日本総研の井上氏は「都心型のライフスタイルが郊外にも広がっており、この新たな経済圏をどうとらえるかが経済回復のカギになる」と話している。(佐久間修志)

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