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“日の丸家電”なぜ先端技術があるのに勝てないのか あのサムスンも畏敬の念

ニュースカテゴリ:企業の電機

“日の丸家電”なぜ先端技術があるのに勝てないのか あのサムスンも畏敬の念

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サムスン電子が発表した85型4Kテレビ=1月7日、米国ラスベガス(米沢文撮影) 【日の丸家電 再生への道】(下)

 先端技術を業績に生かせず

 韓国ソウル市。サムスン電子の本社で、創立記念日の11月1日に毎年行われる記念式典が昨年も盛大に催された。

 数日前に発表された2012年7~9月期連結決算は過去最高の営業利益を計上。それにもかかわらず、式典であいさつした同社幹部は厳しい表情で「サムスンの危機」を訴えた。

 「油断すれば一瞬で没落してしまう」

 サムスンが畏敬の念

 業績は絶好調だが、スマートフォン(高機能携帯電話)をめぐって米アップルとの特許係争が泥沼化。その上、中国企業が低価格スマホで攻勢を強めるなど、経営を取り巻く環境は決して順風満帆ではない。

 なかでもサムスンの弱点は「技術開発のノウハウの少なさ」(関係者)という指摘は多い。

 サムスンはライバル企業の研究者を引き抜き、技術を吸収することで成長を遂げてきた。日本の数多くの研究者も高額でヘッドハンティングしてきたが、「収益に結びつく技術だけを求め、長期的な開発や研究者の育成を怠ってきた」(証券アナリスト)。

 その“負い目”をサムスン自身も実感しているからか、パナソニックやシャープなど日本企業の技術力に対して畏敬の念を示す幹部は少なくない。

 「日本企業には足を向けては眠れない」。豪腕で知られる李健煕(イゴンヒ)サムスン会長は口癖のようにこう話す。関係者によると、サムスンが半導体事業に本格参入した1970年代、日本のある大手メーカーから技術指導を受けた恩義があるという。日本は技術で“教師”だが、皮肉にも業績面では立場が逆転している。

 日本企業は海外のライバルがうらやむ先端技術を持ちながら、なぜ企業間競争で勝てないのか。最大の元凶は「商品化へのスピード感のなさ」だ。

 米ラスベガスで1月上旬に開催された世界最大規模の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」で、サムスンは画面が曲がるスマホの試作機を発表。韓国LG電子は画面がカーブした有機EL(エレクトロルミネッセンス)テレビを公開し、「日本企業の一歩先をいく技術」(関係者)と称賛された。

 しかし、事実は少し異なる。6年前の07年に、ソニーは曲げられる有機ELディスプレーを世界で初めて発表。当時、専門家の注目を集めたが、いまだに商品化には至っていない。有機ELテレビについても、韓国勢が今年前半までに発売するのに対し、日本企業の発売日は白紙状態である。

 人材発掘で生き残り

 「日本は石橋をたたくだけたたいても渡れず損をする。一方、韓国はさっさと渡った後で、他の国が渡れないように橋をつぶしてしまう」。サムスンの元社員はこう例える。決断が遅く、他国に市場を独占されてしまうのが、今の“日の丸家電”の現状だ。

 「今こそ製造業の現場で働き、パナソニックやシャープを変えてみたい」。大阪市内に住む理系の男子大学生はこう話した。

 パナソニックが今月20日に大阪市内で開催した就職説明会には、2000人以上が参加した。来年度は海外を合わせて計1450人の採用を計画しており、これは11年度に比べ増加。「コストがかかっても人材を掘り起こすことが当社を救う」(担当者)と前向きだ。シャープも今年度は国内外で530人を採用予定という。

 「知っていても実行しなければ、知らないことと同じだ」。パナソニックの創業者、松下幸之助氏はかつて経営についてこう説いた。

 研究開発や人材獲得の意欲は海外勢に負けていないが、商品化の遅れや市場を創造できないなど日本の家電各社の未来はかすんだままだ。「家電」という枠組みに縛られず、いかに多様な事業を展開できるか。日本企業に求められているのは、しなやかで、したたかな脱・家電経営なのかもしれない。

 この企画は、板東和正が担当しました。

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