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幻に終わった「NTT対抗軸」 電力系めぐり曲折…違いすぎた企業文化

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幻に終わった「NTT対抗軸」 電力系めぐり曲折…違いすぎた企業文化

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2002年7月、IIJとパワードコムの提携会見で握手するIIJの鈴木幸一社長(左)とパワードコムの種市健社長=東京都港区  ■【通信大競争 30年攻防の行方】(6)

 東京通信ネットワーク(TTNet)の初代社長だった藤森和雄の告別式が3月初旬に行われた。通信市場自由化後30年を目前にした逝去だった。

 藤森は、東京電力が1986年に設立したTTNetに副社長から転じた。豪放磊落(らいらく)な性格で、「NTT対抗の本命は電力系だ。他の新電電はつぶす気で攻める」といった刺激的な発言が先行し、第二電電(DDI)や日本テレコムの経営陣の神経を逆なでした。

 DDIや日本テレコムがゼロから通信網を構築したのに対し、電力系の地域通信子会社は電力業務用光ファイバーを活用できる優位性があった。当時のNTT幹部も「怖いのは電力系」と認めていただけに、藤森の言動は注目された。

 藤森は電力系通信事業者を統合し、NTTに対抗する全国ネットワークを構築する考えを持っていたが、道半ばで経営から退いた。その後、2001年には電力会社の共同出資で法人向け通信サービス中心のパワードコムが発足したが、本格的な一本化は実現せず、06年にはKDDIに買収された。藤森が描いた「NTT対抗軸」は幻に終わった。

 DDI、KDD、日本移動通信の3社が合併して00年に発足したKDDIは、次のステップとして電力系情報通信事業者との提携を目指した。電力系の光ファイバー網でNTTに対抗するのが最大の狙いで、パワードコム買収はその第1弾だった。

 当時、社長の小野寺正(67)は合併会見で、「トップ同士で合意すれば資本提携などの方向に持っていきたい」と述べ、電力系との包括提携に意欲を示した。

 しかし、それから約10年、KDDIの携帯・固定通信のセット割引「スマートバリュー」の販売で電力系との協力関係こそ広がったが、本格提携には至っていない。

 違いすぎる企業文化

 インターネットイニシアティブ(IIJ)会長の鈴木幸一(68)も「打倒NTT」を唱え、電力会社の光ファイバーに目をつけてきた一人だ。1993年11月、日本企業で初めてインターネットの商用サービスを始めたIIJは、通信市場が電話からインターネットに比重を移す中で、存在感を高めることになる。

 DDIや日本高速通信など日本を代表する企業連合として発足した新電電各社の通信事業参入を、鈴木は「名ばかりの競争」とバッサリ切る。NTTと同じサービスを少し安く売るだけの新電電に歯がゆさを感じていた。

 鈴木は自社のインターネット技術と、全国に20万キロ以上の光ファイバー網を持つ電力系通信事業者との組み合わせでNTTに対抗するという構想を藤森や東電副社長だった山本勝(故人)に語り、02年夏にはIIJとパワードコムが「将来の合併を視野」に入れた提携で記者会見した。

 しかし、「うちに通信のプロはいないから鈴木さんに任せたい」と言うほど鈴木を買っていた山本が、前年に死去。後に社長となる勝俣恒久副社長(75)が山本の後任となって交渉は続くが、合併は実現せず、03年には交渉が打ち切られた。

 鈴木は交渉決裂の理由について「勝俣さんは(合併に)慎重だったようだ」と多くを語らないが、当初から「企業文化が違いすぎる」などと相性の悪さが指摘されていた。

 鈴木は会見日の夜、NTT幹部と飲んだことについて、著書「日本インターネット書紀」に書いている。

 《この提携話に最も神経をとがらせていたNTT幹部の高部さんや和才博美さんたちと飲み明かした。(中略)「なにより問題なのは、そもそも鈴木さんの激しい性格で、東電という巨大な官僚組織とうまくやれるはずがない。(中略)電力というのはNTTよりはるかに官僚的なのだから(中略)」と、高部さんの舌鋒(ぜっぽう)はいつも鋭い。

 「もしうまくいって、軌道に乗るようなら、NTTも再々編をやらないと対応できないけれどね」》

 敵の傘下で業績安定

 NTT副社長の高部豊彦(68)と和才博美(68)がそろって、鈴木に電力系との合併を思いとどまるよう話をしていたのは、その後のNTTとIIJの関係を考えると興味深い。

 パワードコムとの合併が白紙に戻り、通信基幹網を持つ子会社クロスウェイブコミュニケーション(CWC)の経営再建が急務となってきた03年春、鈴木はNTT社長の宮津純一郎に呼ばれた。

 宮津は「困ってんだろ。IIJと研究所を一緒にしないか。社名はIIJのままでいい。出資比率は6対4でどうだ」と、べらんめえ調で鈴木に合併を持ちかけてきた。

 「まだ、自力でがんばれる」と思っていた鈴木は申し出を断った。しかし、その半年後にはCWCが倒産し、NTTグループがIIJの第三者割当増資を引き受けて31%強の筆頭株主となった。次いで、CWCをNTTコミュニケーションズに100億円で営業譲渡。高部が主導した支援スキームだった。

 インターネット接続サービスで先陣を切り、「打倒NTT」に執念を燃やした鈴木だが、皮肉にもNTTの傘下に入ってIIJの業績は安定した。

 IIJとパワードコムの提携会見の前年、ソフトバンクが電話回線を使った「ADSL(非対称デジタル加入者線)」方式によるブロードバンド(高速大容量)通信サービス「ヤフーBB」を開始。通信業界が大きく変貌しようとしていた。(敬称略、年齢は現在)

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