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新たなスポーツ観戦スタイル ゲームの魅力、ホスピタリティーで倍増

 スポーツとホスピタリティーの融合。ホスピタリティーとは、広辞苑には「客を親切にもてなすこと」とある。スポーツ観戦の場で、ホスピタリティーをビジネスとして展開し、新たなスポーツ観戦スタイルを確立しようとする動きが、日本でも本格的に始まろうとしている。来年、全国12会場を舞台に開催されるラグビーワールドカップ(W杯)の舞台裏では、その準備が着々と進められている。(フリーランスプランナー・今昌司)

 JTBグループは昨年3月、世界規模でホスピタリティービジネスを展開するスポーツトラベル&ホスピタリティ(STH)との間で、STHジャパンを設立した。主な狙いは、ラグビーワールドカップ大会におけるスポーツ・ホスピタリティービジネスの具現化である。

 ◆娯楽と社交の場

 ホスピタリティーのサービス産業における考え方は、より顧客に寄り添った具体的な施策の提供、さらにはサービスを提供する側の接遇能力の向上にまで及ぶ。スポーツ・ホスピタリティーとは、高度な付加価値の創造、時間をぜいたくに楽しませるための施策の構築、特別な時間をプロデュースする運営など、顧客の移動、食事、そしてエンターテインメント、もちろん最高の試合観戦体験に至るスポーツ観戦のフルサービスを示す。

 欧米では、スポーツ観戦の場が、単なる娯楽の場としてだけではなく、社交の場として機能している。以前、NBA(米プロバスケットボール協会)の公式戦を日本で開催した際に、招待者のドレスコードが話題になったことがあった。

 日本ではスポンサー企業の役員らがスーツ姿で試合会場に来場するケースが当たり前に見られる。そんな様子が、NBAのスタッフには異質に映ったらしい。そこで、半ば強制的に、招待者にはこうお願いした。「堅苦しいスタイルではなく、カジュアルなスタイルでご来場ください」と。中には、「気恥ずかしい。遊んでいるみたいだろう」と苦笑する人もいた。日本でのスポーツ観戦に、楽しいものを楽しく見る、楽しい体験をする、というスタイルが根付かないのは、恐らく、そうした“常識”に支配されているからだ。

 事実、当時のNBAコミッショナー・スターン氏は、観客席のど真ん中でファンと一緒に大声を張り上げ、満面の笑顔で楽しんでいた。そんな雰囲気は、VIPエリアにもあった。ビールを飲みながら、おいしい食べ物を頬張りながら、どの顔を見ても笑顔があふれていた。

 ◆新たな観戦スタイル

 スポーツ・ホスピタリティーは、上質なサービスを求めるセレブ層のニーズを満たすものだけではない。新たなビジネスチャンスを創出させる機会をも提供する。カジュアルなスポーツ観戦の場を通して、顧客との関係強化を図るための接遇機会なのである。

 そこには、洗練された場の創出、上質なサービスの創出、そして綿密に計画された運営と、スポーツイベントで求められる最高レベルのオペレーション能力が求められる。スポーツの試合の価値を高めていくためのあらゆるノウハウが、スポーツ・ホスピタリティーの場では、より洗練され、上質な形で生かされる、ということである。

 今年ロシアで開催されたサッカーW杯においても、スポーツ・ホスピタリティーは巨額な収入をもたらすビジネスとして展開されている。全権利を掌握するマッチホスピタリティ社によって、2006年のドイツ大会から本格的に稼働し、200億円近い収益を上げたとも聞いた。権利ビジネスが、ホスピタリティーという領域にまで昇華し、その規模はもはや大きな収入源にまでなろうとしている。19年は、日本においても、新たなスポーツ観戦スタイルが根付く夜明けの年になるかもしれない。

【プロフィル】今昌司

 こん・まさし 専修大法卒。広告会社各社で営業やスポーツ事業を担当。伊藤忠商事、ナイキジャパンを経て、2002年からフリーランスで国際スポーツ大会の運営計画設計、運営実務のほか、スポーツマーケティング企画業に従事。16年から亜細亜大経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師も務める。

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