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東芝と米大、脳型AIハード構築

 ■空間認知「海馬」機能を模倣

 東芝はジョンズホプキンス大学と共同で、脳内で空間認知をつかさどる「海馬」の機能の一部を、小型のニューロモルフィックハードウエアで模倣/再現させることに成功した。

 現在、極めて高度な情報処理を小型・低電力デバイスで実現するため、世界中で人間の脳機能を小型デバイスで再現する人工知能(AI)技術の開発が進められている。そういった脳内の動きを模倣したハードウエア開発では、深層ニューラルネットワークをデジタル処理する「DNN型ハードウエア」が主流となっているが、実際の脳内の情報伝達はデジタル処理ではなく、神経細胞やシナプスでの「発火現象」といったかたちで、アナログ処理が発する電気的信号でやり取りされている。

 空間認知などの脳機能を忠実に模倣するためには、脳の神経細胞やその動作をアナログ処理で再現するニューロモルフィックハードウエアの実現が必須となるが、脳に関する専門知識とハードウエアの設計技術が必要となるため、実現が難しいとされている。

 東芝はジョンズホプキンス大学との共同研究で、同大学が保有する脳の神経細胞を忠実に再現する神経細胞回路設計技術や、神経細胞の制御技術を開発。同社の回路実装技術を組み合わせることで、ニューロモルフィックハードウエアの構築を実現した。

 脳神経科学分野においてもっとも研究されている分野の一つに、海馬において、空間認知をつかさどる神経細胞である「場所細胞」と「格子細胞」に関する研究がある。ネズミの場所細胞と格子細胞は、ネズミが特定の場所にいるときのみ反応(発火)するとされており、論文で公表されているニューラルネットワークモデルや数理モデルを元に、場所細胞と格子細胞の模倣動作に必要なハードウエアの構成や制御技術、さらに神経細胞の発火信号にポアソン分布をもったノイズを引火する技術を開発することで、神経細胞ハードウエアと専用の制御回路と組み合わせてニューロモルフィックハードウエアとして実装することに成功したという。

 同社では、この脳型AIハードウエアによる実証実験で、場所細胞の発火による発信現象が再現され、脳神経科学で示された結果とほぼ等しい結果を得られたとしている。

 同社によれば、同種の実験結果は過去に発表事例がなく、脳型AIハードウエアを用いた脳機能再現の研究開発を加速できるとしており、将来は自律移動型ロボットなどの小型化に向けた活用が期待され、今後は脳型AIハードウエアのさらなる小型化の実現に向け研究を進め、脳神経科学の進歩とともにAIのさらなる高知能化を目指すとしている。(インプレスウオッチ)

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