高論卓説

ネット会議に相次ぐ不満 顔も声もない参加「参加したふりをしているだけ」

 新型コロナウイルスの感染拡大は、ビジネスパーソンの在宅勤務を加速させ、遠隔地からの参加者によるネット会議を普及させている。しかし、このネット会議、主催者側からは、「発言が活発に出ない」「双方向で意見交換できない」「会議に参加したふりをしているだけの見せ掛けの参加者が続出している」という不満の声が上がり、中には諦観さえ生まれている。

 状況を聞いてみると、ネット会議を実施する際の、「参加者は、基本的にマイクをミュートにして、音声が出ないようにしておかなければならない」「ビデオはオフにしておく」という取り決めが、発言を妨げていると思えてならない。

 ネット会議に、できるだけ静かな場所から参加するように心掛けていたとしても、子供の声や騒音など、予期せぬ音声が入る可能性がある。そこで、参加者はマイクをミュートにすることが、明示的か非明示的かによらず、ルールになってしまった企業がある。ネット会議の冒頭で、「参加者の方はマイクをミュートにしてください」という主催者からのアナウンスに接したこともある。それでは意図していなくても、「参加者は黙って聞いていてください」と受け取られかねず、発言意欲を低下させる。発言しようと思って、マイクの音量を上げているうちに、会議が進行してしまった経験をした人も多い。

 マイクだけではない。ビデオをオンにして、背景に自宅の様子が入ってしまうなど、プライバシーが気になることもあるだろう。そこで、ビデオはオフということが、慣習として広がったように思える。しかし、それでは、双方向で意見交換できないのは当たり前だ。顔が見えない相手と話すことは、誰でも躊躇(ちゅうちょ)する。加えて、ビデオをオフにして、会議以外のことをやっているかもしれないと主催者は疑心暗鬼になるし、参加者は会議に身が入らない。対面での会議に比べて、見せ掛けの参加者が増えるのは当たり前だ。

 私は、ビジネススキルを向上させるための演習プログラムを実施している。対面で演習することが多いが、ネット会議システムで実施することもある。その場合、参加者には基本的にマイクをオンにしていただく。不要な音が入らないかと心配されることもあるが、実施してみると、そうしたことはほとんど起きない。急に雑音が入ることはあるが、その時に音量を下げてもらえばよいだけだ。

 むしろ少し騒々しい方が、意見交換は活発になる。シーンとしていては、逆に話しづらい。話し手に対する聞き手の反応、笑い声やざわつきなどが、お互いに手に取るようにわかり、発言が活発に出やすくなるのだ。

 マイクをミュートにしたり、ビデオをオフにしたりすることは、誰かの話を不特定多数の参加者が一方的に聞くだけのケースでのみ適用すべきルールだ。意見交換を活発にしたいにもかかわらず、マイクはミュート、ビデオはオフというルールを撤廃しないから、不満の声が上がるのだ。私の場合は解説や説明をしない、演習だけの能力開発プログラムを実施しているので、マイクやビデオをオンにすることが不可欠だ。参加者同士やトレーナーと参加者とのロープレには、ネット会議システムは、むしろ使い勝手がよい。

 ネット会議が役に立たないという諦観を払拭するには、参加者がマイクのミュートを解除して、ビデオをオンすることから始めればよい。そうすれば、ネット会議の不満は解消し、利用が進む。ひいては在宅勤務の懸念が払拭され、多様な働き方もさらに実現していくに違いない。

【プロフィル】山口博

 やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国大非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。

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