高論卓説

環境整った地銀再編 地方創生に不可欠な金融機能強化を

 菅義偉政権が発足した。安倍晋三政権の継承を示唆する菅総理の経済運営について市場関係者は、「円安・株高を演出してきたアベノミクスが当面、維持されるだろう」と見る。アベノミクスの根幹をなす3本の矢は温存され、日本銀行によるマイナス金利政策を含む大規模な金融緩和も継続されよう。(森岡英樹)

 このことは同時に、金融機関の収益環境は厳しい状況が続くことを意味する。とりわけ人口減少や地域経済の縮小に苦しむ地方銀行の経営環境はアゲインストの風が吹き続けることになる。

 菅氏は自民党総裁選の過程で、「地方の銀行について、将来的には数が多すぎるのではないか」と語り、「再編も1つの選択肢になる」と指摘した。この菅発言を受け、再編銘柄と目される地銀の株価が軒並み上昇した。市場は地銀の再編を先取りし始めている。

 銀行の歴史は再編の歴史でもある。日本経済の血流である資金供給を担う銀行は長い時間をかけて合従連衡を繰り返してきた。また、金融行政においても銀行の再編は中心課題であり続けた。特に地銀の合併については、相互銀行が普通銀行に一斉転換し、現在の第二地銀となる過程でクローズアップした。さらにバブル崩壊後の1990年代、不良債権処理の過程で地銀の再編は俎上(そじょう)に載り、第二地銀を中心に数多くの銀行が再編淘汰(とうた)された。

 しかし、その過程で痛感されたことは、いずれの銀行も好き好んで再編を選択するケースは極めて少なかったことだ。そこには歴史的な背景やそれぞれの銀行が持つ「業」のようなものが影を落としていた。

 銀行の合併は、「1+1は3にも4にもなる」と表現されるように、合併で合理化効果が期待できるとともに、経営基盤が強化されることを意味する。だが、再編そのものは目的ではなく、あくまで手段にすぎないことを忘れてはならない。合併により資本や顧客基盤が増強され、顧客への商品やサービス、資金供給能力が拡充することに目的がある。「まず再編ありき」ではなく「まず顧客ありき」の姿勢が重要だ。

 菅総理が「地方の銀行について、将来的には数が多すぎるのではないか」「再編も1つの選択肢になる」と指摘するのは、「地方創生を推し進めるためには、地域経済の血流を担う銀行がしっかりすることが重要であり、そのためには再編も選択肢となる」ということであろう。経済規模が縮小する中、銀行の数が相対的に多い地域があることは事実だ。

 再編は同時に、銀行の多様性を喪失するリスクがあることにも留意しなければならない。このことはかつて13行あった都市銀行が3メガバンクとりそなホールディングスに集約されたことからも分かる。かつては多様な銀行が存在し、それぞれが特色ある形で、多様なリスクをとって営業していた。

 例えば「都銀A行から融資を断られたが、B行が救ってくれた」といった企業経営者の声が聞かれたものだ。現在では選択肢は限られる。地銀同士の統合・合併を独占禁止法の適用除外とする特例法が11月27日に施行される。また、金融機関が公的資金を受け入れやすくする改正金融機能強化法が成立、8月14日から施行された。いずれも地銀の再編を後押しする環境整備となるが、再編で銀行の数を少なくすることは目的ではない。

【プロフィル】森岡英樹 もりおか・ひでき ジャーナリスト。早大卒。経済紙記者、米国のコンサルタント会社アドバイザー、埼玉県芸術文化振興財団常務理事を経て2004年に独立。福岡県出身。

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