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首都圏震度5強 都市基盤、脆弱さ露呈…10年前の教訓生かせず

 首都圏で7日夜に最大震度5強を観測した地震は、鉄道や水道などのインフラを直撃し、都市基盤の脆弱(ぜいじゃく)さを改めて露呈した。8日時点の負傷者は1都4県で計43人に上り、うち4人が重傷。主要駅には同日未明まで帰宅困難者があふれ、一夜明けた通勤・通学時間帯も入場規制などで混乱が続いた。東京都足立区を走行中に脱輪した日暮里(にっぽり)・舎人(とねり)ライナーは、復旧までに数日かかる見込み。

 朝の駅も入場規制

 8日朝、JR武蔵野線の南越谷駅(埼玉県越谷市)では改札口近くに規制線が張られ、数百人の人だかりができた。勤務先の携帯電話販売店に向かう途中だった男性(26)は「この電車に乗れなければ、遠回りしなければならない。店の人手が足りているか心配だ」と不安を口にした。

 鉄道のダイヤの乱れは8日午後も続いた。JR東日本では7日深夜以降、新幹線と在来線16路線で運休や遅れが生じ、計約36万8千人に影響した。8日未明にかけて運転を見合わせた山手線などの主要駅には帰宅困難者が群がり、タクシー待ちの長い列ができた。

 勤務先が新横浜駅近くだという埼玉県蕨市の男性会社員(28)は、横浜駅で一夜を過ごした。「このまま出社するしかない…」。8日午前6時ごろ、疲れ切った様子で話した。

 松野博一官房長官は8日午前の記者会見で、帰宅困難者向けに東京、神奈川、千葉の3都県で一時滞在施設を計6カ所設置し、約120人が利用したと説明。政府は鉄道事業者に終電以降の運行継続を要請し、タクシー事業者には主要ターミナル駅に可能な限り配車するよう求めたという。

 斉藤鉄夫国土交通相は8日の閣議後会見で、鉄道事業者やタクシー事業者への要請により、同日午前3時には帰宅困難者がおおむね解消したとの認識を示した。

 教訓生かせず

 7日午後10時41分ごろの地震発生時、東京都足立区の舎人公園駅付近を走行していた日暮里・舎人ライナーの車輪がレールから外れた。足立区では震度5強を観測、東京23区では東日本大震災以来10年ぶりの大きな揺れだった。

 日暮里・舎人ライナーでは震災時にも同様の事故が起きていたが、その後技術的な改善は行われておらず、教訓が生かされなかった可能性がある。都の担当者は「原因を調査し、どんな対策ができるか考えたい」と話した。

 今回の地震の影響で、他にも多くの路線が運転を見合わせた。私鉄各社が8日朝からほぼ通常運行に戻ったのに対し、JR東日本の在来線では運休や遅れが午後まで続いた。

 入場規制が行われた京浜東北線の川口駅(埼玉県川口市)では、駅前の歩道橋に通勤・通学客の行列が連なった。売店の女性店員(77)は「始発の頃から大変な混みようで、改札内は身動きができないくらいだった」と振り返る。

 再開に時間がかかった理由について、JR東の担当者は営業距離の長さなどを挙げ、「人の目で点検しないといけないため、通常運行まで時間がかかる」と説明。私鉄に比べ、保線要員が少ない事情もあるとみられ、「地震に限らず、災害後の復旧は遅れがちになる」と理解を求めた。

 東日本大震災の発生直後、JR東は多くの帰宅困難者を駅から閉め出し、批判を招いたため、首都圏の主要駅200カ所に災害物資を備蓄するなど受け入れ体制を整えた。

 今回は新型コロナウイルスの影響や深夜の地震発生で、10年前より乗客は少なかったが、一部の駅では再びシャッターを閉じる事態が起きたという。「受け入れスペースなど設備面で難しかった」(担当者)。

 東京大の広井悠教授(都市防災)は「帰宅困難者の問題は災害規模や発生場所、時間帯などにより、かなり様相が異なる」と指摘。「コロナ対策でテレワークが推奨されていることも考慮し、いろいろな(災害の)パターンを考えるべきだ」という。

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