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【アジアの目】ロヒンギャ族にイスラムテロの魔手

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【アジアの目】ロヒンギャ族にイスラムテロの魔手

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ミャンマーでのロヒンギャ族に対する暴力を止めるよう求めるプラカードを掲げ、抗議行動を行うロヒンギャ族の人々=インド・ニューデリー(AP)  バングラデシュとミャンマーの両国にまたがる地域で、苦しい生活を強いられているイスラム教徒(ムスリム)のロヒンギャ族の人々を狙い、イスラム過激派が勢力拡大を図っている。ミャンマー政府に対応を迫るばかりで国際社会が手をこまねいている隙に過激派はロヒンギャ族の若者を戦闘員に仕立て上げ、アフガニスタンでの戦闘に参加させているという。

 ◆ミャンマーは認めず

 ロヒンギャ族は、ミャンマー北西部のラカイン州を中心に居住するムスリムだが、ミャンマーはロヒンギャを同国が指定する少数民族とは認めず、ベンガル系の不法移民と位置付ける。一方、バングラデシュもロヒンギャの仮定住キャンプはあるが政治難民とは認めず、ミャンマーからの流入を制限する。

 ミャンマー、バングラデシュだけでなく、タイやマレーシア、インドネシアなどもロヒンギャ族を難民として受け入れることには消極的だ。

 ミャンマーには昔から住んでいるムスリムも多いが、ロヒンギャ族に対してだけは政府が厳しい姿勢を取っても、国内にそれを非難する声は少ない。

 1990年の総選挙ではロヒンギャ族も選挙権があり、彼らの多くはアウン・サン・スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)を支持した。しかし、民政移管後に国会議員になったアウン・サン・スー・チー氏は大多数の国民の声を気にしてか、ロヒンギャ族を支持するような発言はほとんどしなくなった。

 ロヒンギャ族を取り巻く現状は、勢力拡大を狙うイスラム過激派にとって絶好の機会となっている。

 ◆国際組織と連携

 インドのシンクタンク、防衛研究分析研究所(IDSA)のスムルティ・パタナイク上席研究員は、英紙ガーディアンに対し、「バングラデシュの過激派組織が、ロヒンギャ族の若者を訓練し、アフガニスタンでの戦闘に参加させている」と指摘する。ロヒンギャ族の難民キャンプがあるバングラデシュ南部のウキア周辺が、こうした過激派組織の活動拠点だという。

 過激派集団とされる「ロヒンギャ連帯機構」(RSO)は、バングラデシュの過激派、ハルカット・ウル・ジハディ・イスラミア(HuJI)や他の過激派組織と連携していると、パタナイク上席研究員はみている。

 実際、2014年10月にインドの西ベンガル州ブルドワンで起きた爆弾事件では、12月になってRSOに所属する3人がダッカで逮捕された。

 インドのPTI通信はバングラデシュ当局者の話として、3人がイスラム過激派組織ジャマートゥル・ムジャヒディン・バングラデシュ(JMB)につながっていたと報じた。

 JMBはパキスタンに本拠をおく国際テロ組織、ラシュカレトイバ(LeT)から戦闘訓練を受けている。LeTは08年11月、インド・ムンバイで日本人を含む400人近くを殺傷した同時多発テロを主導したとみられる組織だ。さらにJMBもLeTも、イスラムの教えに基づく新たな国家建設をめざしており、国際テロ組織、アルカーイダともつながっている。

 パタナイク上席研究員はまた、ミャンマーとバングラデシュ国境地帯でのLeTの活動が、最近一段と活発化しているとして警戒を呼びかけている。

 一方でミャンマー国内では、イスラム教は脅威だとしてムスリム排斥を主張する「969運動」の指導者、ウィラトウ師を支持する声が多く、ムスリムと仏教徒との対立は、さらに先鋭化しそうだ。

 ミャンマーでは3月末、テイン・セイン政権と国内の16の少数民族武装勢力の代表が、停戦に向けた基本合意に達し、テイン・セイン大統領が4年前の就任演説で重要課題にあげた、少数民族との関係改善において大きな一歩となった。

 しかし、この合意には当然だがロヒンギャ族勢力は含まれていない。だからといって、欧米のようにミャンマー政府の取り組みを非難すれば解決する問題ではない。そもそも英国が、植民地時代にラカイン族から土地を取り上げてロヒンギャ族に与えたことが、現在の対立の遠因であるのを忘れてはならない。(編集委員 宮野弘之)

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