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生活保護不正受給「返還わずか3割」の現実…自治体「やむを得ず」強制徴収

ニュースカテゴリ:暮らしの生活

生活保護不正受給「返還わずか3割」の現実…自治体「やむを得ず」強制徴収

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生活保護費が現金支給される大阪市西成区役所。制度への関心の高まりを反映し、支給日には多くの報道陣が取材に訪れた。生活保護をめぐる不正受給はその返還に妙案がなく、「不正受給にペナルティーなし」とも揶揄されている  生活保護を不正に受給した人に不正分を返還させる手続きをめぐり、大阪府内の複数の自治体が、月々の保護費から返還金をあらかじめ差し引く「天引き徴収」を行っていたことが明らかになった。現行制度ではこうした“強制徴収”は認められておらず、監督する府が是正指導に乗り出す事態に。中には受給者から預かった印鑑を職員が勝手に押印していたケースもあった。自治体によるこうした手続き違反は論外だが、背景には制度に対する厳しい世論と、不正受給された保護費の回収の難しさが横たわっている。

 自治体「やむを得ず」

 天引きが明らかになったのは大阪府内の八尾、吹田、交野、寝屋川の4市。

 生活保護法は不正受給が明らかになった場合、自治体が不正分の費用を徴収できると規定。返還金は市の口座に入金してもらうか、窓口に現金を直接持参してもらう方法で回収する。

 そもそも、不正に受け取った税金なのだから「天引きは当然だ」と思われるかもしれない。

 だが、現行制度では、受給者がいったん全額の保護費を受け取ってから、返済できる分だけを自主的に納める決まりで、強制徴収は認められない。

 ところが、4市は一部の受給者の手続きを代行。あらかじめ返還分を市の口座に入金した上で、残額を保護費として支給していた。

 さらに八尾、吹田、交野の3市は自主的に返還を受けたように装うため、受給者から預かった印鑑を使い、立ち会いなしに領収書に押印もしていた。八尾、交野の両市はこの際に同意書面も取りつけていなかった。

 府は保護費を全額支給しなかった点に加え、職員が印鑑を管理したり、勝手に押印したりしていたことを問題視。「保護費の着服など、職員による不正を誘発しかねない」として改善を指導した。

 これに対し、一部の市は「返還金を確実に回収するためにやむを得なかった」と釈明。年々増加する不正受給に対応するため、「苦肉の策」として天引きを行っていたとした。

 “泣き寝入り”頻発

 実際、自治体による返還金の回収は思うように進んでおらず、どの自治体も4市のような強引な手法に走りかねない現状がある。

 厚生労働省によると、全国の不正受給額は単年度で173億円(平成23年度)だったのに対し、返還額は45億円。回収率は3割に満たない。この45億円には同年度以前の不正受給の返還分も含まれているため、実際の回収率はさらに下方修正して考える必要がある。

 一方、天引きを行っていた八尾市の場合は、不正受給額が約2700万円(24年度)だったのに対し、返還額は約2500万円。全国平均との差は歴然だ。

 そもそも、返還金は一括返済が原則だが、一度にまとまった現金を用意できる受給者は少なく、毎月支給される保護費から千円単位で分割返済する受給者がほとんど。完済まで数十年を要するケースも珍しくない。

 加えて「最低限度の生活保障」という法の趣旨から受け取った保護費をどう使うかは受給者の自由で、自治体は制限できない。いくら返還金を回収しようとしても「手元に金がない」と拒まれれば“泣き寝入り”するしかない。つまり、八尾市をはじめとする4市のような天引きに踏み切らなければ、回収率を上げるのはほぼ不可能ともいえる。

 現場は法改正を歓迎

 もともと、受給者が不正に受け取った保護費が税金なら、返済に回す保護費も税金。いわゆる身銭を切る感覚とは違う。「不正受給にペナルティーなし」といわれるゆえんであり、納税者からは厳しい目が向けられている。

 実際、今回の問題が発覚した後、インターネット上では4市の手続きを批判する声が目立つ一方、一部で評価する書き込みも。「天引き以前に不正受給者の生活保護の支給を停止できないことがおかしい」と、制度そのものに疑問を投げかける意見もあった。

 大阪府内のある自治体関係者は「4市のように職員が印鑑を預かり、勝手に書類に押印するのは問題。それでも、今のままでは不正受給者の『もらい得』を許すことにしかならず、納税者の不公平感に拍車がかかってしまう」とジレンマを口にする。

 こうした状況を打開すべく、今年7月に施行される改正生活保護法では、自治体が月々の保護費から返還金を天引きできるよう制度が改められた。受給者数が全国最多の大阪市のある担当者は「格段に回収業務がはかどる」と歓迎する。

 担当者によると、返還を自発的意思に委ねるしかない現状では、受給者がギャンブルなどで保護費を浪費し、返還に応じないケースがしょっちゅうある。そのたびにケースワーカーが説得に追われ、手間がかかるのが悩みだった。

 もちろん、法改正後も受給者の同意が前提だが、回収の手間は軽減されるとみられ、厚労省は現在、具体的な運用ルールを検討中だ。府の担当者は「この改正で4市のような不適切な手続きはなくなるだろう」とみており、今後回収率がどのように変化するか、注目される。

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