SankeiBiz for mobile

【サスティナブルにっぽん~栃木県】世界の飢餓救う、パン屋の挑戦 柳沼愛子

記事詳細

【サスティナブルにっぽん~栃木県】世界の飢餓救う、パン屋の挑戦 柳沼愛子

更新

 被災地や飢餓に苦しむ国々へ、缶詰の、それもふわふわのパンを無料で届ける「救缶鳥プロジェクト」に世界の注目が集まっている。参画団体は約1050。さらに全国から問い合わせが相次いでいるという。

<< 下に続く >>

 「3年たってもふわふわ」の缶詰パンを考案し、プロジェクトを進めているのは、栃木県那須塩原市のパン屋「パン・アキモト」。先代が創業して71年、地元で親しまれてきたパン屋が缶詰パンを作ることになったきっかけは、1995年の阪神淡路大震災だった。焼きたてのパンをトラックに積んで被災地に向かったものの、混乱の中、大勢に配る前に賞味期限が切れてしまうことも多く、被災者から「乾パンのように保存性がある、おいしいパンを作ってほしい」と要望があった。この言葉が、2代目の秋元義彦社長を開発に向かわせた。

 焼きあがったパンを瞬間冷凍したり、真空パックにしたり、様々な方法を試したが、適度なふっくら感のあるパンには程遠く、保存食にするのも難しい。そんな時、近所の農産物加工所で缶詰を見て「これだ」とひらめいたという。

 ところが、実際に柔らかいパンを缶につめるのは難しく、作業工程で雑菌も入ってしまう。試行錯誤の結果、缶にパンの生地を入れ、缶ごと高温オーブンで焼き上げる方法にたどり着き、防腐剤を使わない缶詰のパンの完成となった。さらに和紙と同じ特性を持つ紙をパンに巻くことで余分な水分を取り除き、3年経ってもふっくらしっとりのパンの缶詰ができた。

 その缶詰パンを使った「救缶鳥プロジェクト」。賞味期限37カ月の備蓄用パンの缶詰を購入した企業や自治体のうち、再購入を希望する客に対し、製造から2年が経ったものを無償回収。チェックをした上で、NGO等と協力して被災地や世界の飢餓地域に送る仕組みだ。2009年のスタート以来、イラン、イラク、エスワティニ、ジンバブエ、ケニアなど16カ国に約27万缶を届けた。国内では東日本大震災や熊本地震はじめ、今年は西日本豪雨の被災地に送っている。

 放っておくと、1年後には賞味期限が切れて廃棄することになる品物を活用できるとあって、全国から問い合わせが相次いでいるそうだ。プロジェクトに参画してくれた客にパンの缶詰が届いた様子を写真やレポートで報告することで「義援の見える化」を図り、より多くの賛同を得ている。

 食品ロスが問題視される中、賞味期限が近づいた食べ物を無駄にせず活用するプロジェクトは、今後も多くの人々の笑顔を生み出すだろう。

【サスティナブル】

1992年の第1回地球環境サミットで初めて提唱された「持続可能な発展」という考え方。以後、国や産業の発展には自然環境への配慮が不可欠であることが世界的に広く浸透している。本コラムでは、サスティナブルな社会を目指す日本各地の取り組みを紹介する。

              ◇

 やぎぬま・あいこ 元テレビユー福島アナウンサー。現在はTVCMに出演する一方で、webサイトコラムも執筆中

【局アナnet】 2004年に創設された、全国の局アナ経験者が登録するネットワークサイト。報道記者やディレクターを兼ねたアナウンサーが多く、映像・音声コンテンツの制作サービスを行っている。自社メディア「Local Topics Japan」(http://lt-j.com/)で地方のトピックス動画を海外向けに配信中。

このニュースのフォト

  • 3年経ってもふわふわの缶詰パン「救缶鳥」
  • 3年経ってもふわふわの缶詰パン「救缶鳥」
  • 救缶鳥はパン生地を缶に入れ、缶ごと焼く=パン・アキモト提供
  • 柳沼愛子

ランキング

Facebook Messanger登録

あなたに合わせたニュースを毎日お届け

Facebook Messangerを登録した時のイメージ画像です