大家俊夫のヘルスアイ

“意識高い系”がハマる悪質商法

 医師が実名で啓発本 「黙っていては被害広がる」

 科学的根拠が乏しい医療・健康関連サービスの実態について、医師が実名で警鐘を鳴らす「“意識高い系”がハマるニセ医学が危ない!」(育鵬社)が「勇気ある書」として医療界に波紋が広がっている。

 「3の法則」の罠

 出版に踏み切った本音はどこにあるのか?

 著者の桑満おさむ医師(五本木クリニック院長)を取材すると、「正義感を振りかざして本を出したわけでない。ただ、黙っているとその被害はとてつもなく大きくなりそうだからペンを執ったんです」。

 どのような被害が出ているのか?

 「最初に3万円払うと、次は30万円、その次は300万円を払わされる人が後を絶ちません」(桑満医師)

 これって、詐欺のような話?

 「そうです、ほとんど悪質商法に近い形です。これは私が独自に使っている“3の法則”です。最初に3万円払ってしまうと、それ以降、ひと桁ずつ上がっていくという法則。これがニセ医学の領域にも浸透しています。中には3000万円を払わされた人もいます」(同)

 どのような人がハマりやすいのか?

 「副題にある“意識高い系”の人たちです」

 「意識の高い人」と似ているが中身はまったく異なる。桑満医師は意識の高い人を「向上心や責任感をもち、努力する人」とし、“意識高い系”は次のように定義する。

 (1)現状の医療に不信感があり、高額な“トンデモ医療”にはまってしまう。

 (2)自分だけはラクしたいとの思いが強く、即効性のある医療・美容サービスや商品に飛びつきやすい。

 (3)自分は特別の意識から、勧誘されると自尊心がくすぐられ乗ってしまう。

 特に子育て中の若いお母さんが危ないそうだ。「そうしたママさんたちは世間の情報からほぼ遮断されていることも手伝って、勧誘されると、『3の法則』にはまり、不本意な高額出費を余儀なくされるケースが続出しています」(桑満医師)

 中学の知識で十分

 だまされない手立てはあるのか?

 それには知識の原点にかえること。中学生程度のサイエンスの知識で十分だという。「原子番号1の水素は、最も軽い気体ということを習ったはずなのに、大人になって忘れてしまう。すべての商品ではないですが、ちまたで売られている水素水の商品には、ふたをあけた途端、大気中に消え去ることがあります」

 「“コラーゲンで肌がプルプル”も、中には怪しいものがある。コラーゲンは肌の弾力を支える成分だが、摂取しても効果があまり見えない場合がある。酵素やデトックスの名称がついたものも要注意ですね」

 このほか、「『ステロイドは怖い』と言う人がいるが、それを拒否して炎症を放置する方が危険なケースもある」「ワクチン接種は、効果とリスクを考えよ」…とも。筆者は内外の医学論文を常にチェックし、知っている人には「そうそう」、知らなければ「えー」という情報を盛り込んだ。

 ではなぜ、これが「勇気ある書」とみなされているのか。それは医療界では、同業の医師らを表立って批判することはタブーだからだ。たとえば、前述したような医療・健康関係の商品を権威付けるために、著名な医療関係者らが監修するケースがあるとする。しかし、それが明らかに大げさな効果にみえても、他の医師がとやかく言うことはまれだ。

 先日も大御所の医師に保険適用外のある治療方法の是非について、「お名前を出して書かせていただきたい」と依頼したら、「患者のために啓発する趣旨には賛同するが、名前は困る」との答えだった。

 だからこそ、この本は医療界の慣習を破る書という認識が広がっている。

 以前、「家庭の医学」という分厚い本がどの家にもあったはずだ。いまは「MSD」のようなネット版があるが、健全なヘルスケアの観点から必要なのは、この本のような啓発本だ。社員が雑多な情報に翻弄されないように、健保組合などでミニ研修会を開いて、真の意識高い人を育てるのもいいかもしれない。(産経新聞編集委員)

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