墓じまい(2)「手続き」を知る
■周囲への相談 早めに、丁寧に
一生で1度あるかないかの「墓じまい」。何から手をつけたらいいか分からないのは当たり前。周囲の理解を得る努力をすることはもちろん、行政への手続きも必要だ。
◆遺棄は法律違反にも
最初に考えなくてはいけないこと。それは「遺骨の新たな納め先・引っ越し先」を決めることだ。墓を更地にするからといって、そこにあった遺骨を勝手に捨ててはいけない。
理由は2つ。1つは、ご先祖さまがお怒りになり、きっとバチがあたるからだ。多くの日本人の宗教的感情からいえば、勝手に捨てることに躊躇(ちゅうちょ)したり、捨てた際には悔悟の念を持つことになるだろう。
2つ目は、法律違反になるからだ。「墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)」では、「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行ってはならない」(第4条)と規定している。「刑法」でも「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処する」(190条、死体損壊等)と定めている。
では、遺骨をどこに引っ越しさせるか。主な選択肢は6つ。(1)新しく墓を建てる、(2)納骨堂に移す、(3)合祀墓に移す、(4)樹木葬をする、(5)自宅で供養、(6)散骨、といったことが考えられる。同時に、お墓の管理者(寺など)に、墓じまいを考えていることを早めに伝えることも必要だ。
◆行政の許可をもらう
遺骨の行き先が決まり、周囲の理解が得られる段階まできたら、次は行政手続きが必要になる。ポイントとなるのは「いまの墓を管理する施設(寺など)」「遺骨の受け入れ先となる施設」「いまの墓がある市区町村」の3者から墓じまいを認めてもらうこと。そのうえで、自治体から「改装許可証」をもらえば、遺骨を取り出し、墓を更地にする作業に着手できる。
市区町村によって手続きの書面形式、提出書類などが異なるが、手続きそのものは難しくない。面倒ならお金はかかるが墓石店などに相談すれば手伝ってくれる。
更地になる墓から魂を抜く法要(「閉眼法要」「魂抜き」など)や、引っ越し先での法要(開眼供養など)といったことも大切にしたい。
◇
■チャートで解説 墓じまいの手続きと流れ
≪1≫遺骨の移し場所を考える
□勝手に捨てると、バチがあたるし法律違反
□(1)新しく建墓(あるいは、現在の墓石ごと引っ越し)、(2)納骨堂、(3)合葬墓、(4)樹木葬、(5)自宅で供養、(6)散骨…といった選択肢がある
□移す場所は、複数あってもかまわない
□墓じまいをせず、「分骨」して一部だけを移すという方法もある
□相見積もりを取ることも考えたい
↓
≪2≫家族、親族など関係者には、早めの連絡
□あなたの知らないところで、墓参りをしている人がいるかも
↓
≪3≫霊園・墓地の管理者(寺など)に連絡
□トラブルを避ける意味でも、なるべく早い段階で相談したい
□なかには「離檀料」が必要となる寺もある
↓
≪4≫遺骨の引っ越し先から、「受入証明書」の発行手続き
□発行者によっては「墓地使用承諾証」「墓地使用許可証」という名称の書類となることも
□新しく墓を建てる場合には、建墓の契約をする
□墓ができるまで3カ月程度かかることに注意
↓
≪5≫いまの墓がある自治体から「改葬許可申請書」を取り寄せる
□自治体のホームページからダウンロード、あるいは郵送で入手できるところが多い
□申請は遺骨1体につき1通が原則(複数の記入ができる書類を用意している自治体もある)
↓
≪6≫現在の墓の管理者から「埋蔵・収蔵証明書」を発行してもらう
□自治体から手に入れた「改葬許可申請書」の用紙のなかに記入欄を設けている自治体も多い。管理者が独自に書類を発行しても可
↓
≪7≫「改葬許可証」交付の手続き
□市区町村に(1)「受入証明書」、(2)「改葬許可申請書」、(3)「埋蔵・収蔵証明書」を提出して審査してもらう
□即日発行がほとんどだが、1週間程度かかる自治体もある
↓
≪8≫現在の墓の管理者に「改葬許可証」を提示して、遺骨を取り出す
□「閉眼法要」や「魂抜き」と呼ばれる儀式を行い、遺骨を取り出す
□実際の取り出しは石材業者に依頼
↓
≪9≫墓石を解体撤去して更地に戻す
□原状回復が基本。もともと墓石があった場合にはそれを残す
□墓地の使用権を返すことになる
↓
≪10≫新たな場所に遺骨を移し、供養する
□「改葬許可証」は新しい納骨場所の管理者に提出
◇
■「身内」「費用」など悩みの種 トラブルの事例に学ぶ
お墓にはいろいろな人の「思い」や「利害」「立場」が複雑に絡み合っている。墓石をカタログ通販で扱う「まごころ価格.com」による「墓じまい経験者の意識調査」によると、墓じまいをした人の35%が何らかのトラブルを経験している。
全体の4割を占めるのが「親族間」「次の納骨場所」「墓石解体費」に関するトラブルだ。「親族間」の問題では、「親戚がお参りに行ったらお墓がなかったことに憤慨した」「納骨先が合葬墓と知り、誰とも分からない骨と一緒にするなんてと非難された」など、あらかじめ相談しなかったことに端を発している。同社営業部課長、本間一彰さんは「お墓は自分や家族以外にも関わりがあります。特に本家の場合はつながりがある方に事前に相談し、遺骨の移動先についても伝えておくべき」とアドバイスする。
次いで多かった「次の納骨先が見つからない」という問題は、場所や費用を含め納骨場所をどう選んでいいのか分からないという状況を指す。「そのような場合には、今後どんなふうに遺骨を供養していきたいのか整理することが大切です」と本間さん。
墓参りの頻度も判断基準の一つだ。頻度が高ければ自宅近くに、行かないのであれば費用を優先したり、遺骨を残さない散骨なども選択肢となる。「子供に負担をかけたくないと散骨や合葬墓を選ぶ親御さんもいますが、実は子供は墓を残したい、形あるものに手を合わせたいと思っている場合もあります。一方的に決めず相談することが重要です」
墓石解体費にまつわるトラブルも少なくない。「工事着工後に追加の料金を請求された」「聞いていた額と実際の額が違った」といったケースだ。本間さんは「価格が明瞭で施工実績豊富な業者を選ぶこと、口約束ではなく必ず契約書を交わすこと」の重要性を訴える。そのうえで、見積もり時には、お墓の写真や具体的な情報を渡したり、現場を実際に見て正確な額を出してもらうことが重要だ。(『終活読本ソナエ』2019年秋号から、随時掲載)