クルマ三昧

元ヤナセ営業マンが説く「対面販売」の醍醐味 テスラ方式では得られないもの

木下隆之
木下隆之

 じつは僕は、テスラ「Model3」が発表された2016年に、かなり早いタイミングで先行予約をしていた。テスラの中ではエントリーモデルという位置付けとはいえ、数百万円の買い物をインターネット上でポチッとしたのだ。

 ところがそんな初めての経験に対する期待は、次第に薄れていった。というのも、ついこの間までの数年間、テスラ側からは一切の連絡がなかったのだ。洒落たクリスマスカードはおろか、DMすらも送られてこなかった。

 たしかにテスラは、プロダクトそのものも、これまで慣れ親しんできた操作方法はすべて覆される。コクピットにはタブレット以外に表示するものはなく、エアコンやオーディオはすべてここで操作。スマートキーを身につけてクルマに近づけば自動的に解錠され、運転席に座れば自動的に電源が入る。あとはギアをセレクトしてアクセルを踏み込むだけ。

 だからこそ、先行予約以降の対応に違和感があっても驚きはしないが、果たしてこのような販売プロセスが日本のマーケットに受け容れられるのだろうか? とくに日本人にとってクルマは財産に等しい大きな買い物だから、売り手と買い手とが理解し合い、人間的な信頼関係を築いてから契約書に押印するという段取りを求める。ましてや、高額なモデルになるほどその傾向は顕著であるはずだ。

 自動車セールスを憧れの職業に

 そんなことを考えているときに、1冊の本に出会った。タイトルは、「自動車販売業を憧れの職業に!」。自動車販売業の社会的地位が、それほど低いとは思わないが、少なくとも憧れの職業ではないかもしれない。そう思って手にとってみた。

 この本のタイトル、「自動車販売業を憧れの職業に!」には、著者のこんな思いが込められている。クルマを買うことによって趣味が増えたり、行動半径が広がったり、家族や友人との関係性が豊かになったり…これらを著者は「人生が変わる」と表現する。そんな大げさな…と思ってみたが、そういえば初めてクルマを運転したとき、人生観がガラリと変わったことを思い出した。新しいクルマに買い替えたときには、同じ目的地でもアクセスするルートが変わったり、大切な人と過ごす時間が増えたりと、何かしら生活が変わっていた気がする。

 さらに著者は、売り手が買い手に対して「このクルマに乗ることによりライフスタイルがどう変わるか」とか、「誰が喜ぶのか」「どんな乗り方(使い方)をすれば楽しいか」という、買い手自身が気づいていない新しい世界観を提案していく。それにより買い手が、未来のカーライフに対して強い期待感を抱いたりすることこそが、自動車販売を業とする者にとっての醍醐味である…とも説いている。曰く、「自動車は人生を変える」力を持っており、そんな素晴らしい商品を扱う自動車販売業が憧れの職業とならずになんとする…そんなメッセージなのだ。

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