主張

出生前診断 「命の選別」に議論尽くせ

 ダウン症などの染色体異常の有無を、胎児の段階で妊婦の血液から調べる「新出生前診断」について、日本産科婦人科学会(日産婦)は、小規模な医療機関、診療所でも受診できるよう指針を改定したと発表した。

 実際に運用するかどうかは、厚生労働省の判断を待つとしている。

 日産婦は昨年、実施施設の要件を大幅に緩和する方針を打ち出したが、複数の学会が安易な拡大に反対していた。今回の指針改定では小児科医との連携を強める要件を盛り込むことで、日本小児科学会と日本人類遺伝学会の合意を得たという。

 一方で厚労省は新出生前診断に関する検討会を設置し、議論を始めている。その議論が熟するのを待たずに、日産婦は指針改定を発表した。検討会やそこで期待される幅広い議論を軽んじる姿勢であると言わざるをえない。

 出生前診断は「命の選別」にかかわる重い問題をはらむ。これまでより簡便でリスクが小さい新たな検査技術が登場したことで、倫理的な問題点を積み残したまま急激に普及が進もうとしている。

 国内で新出生前診断は平成25年に臨床研究として始まった。昨年3月までに約7万2500人が認可施設で検査を受けた。このうち染色体異常が分かったのは約1150例で、約900例が妊娠中断(中絶)を選択した。子宮内胎児死亡が約200例、妊娠を継続したのは50例ほどである。

 当事者の決断は尊重すべきであるが、出生前診断が現行の母体保護法では認められていない「胎児の異常を理由とする中絶」を強く誘導していることは、否定できない。特定の障害の有無を胎児の段階で判定する出生前診断は、その技術自体が命を選別する意図を持っている。

 日産婦が実施施設の拡大を目指す背景には、無認可施設の横行がある。もちろん、妊婦への十分な説明、サポートが行われない無認可診断の拡大は止めなければならない。だが、そのために認可施設を増やすことは、なし崩し的に出生前診断と、それに伴う「命の選別」を容認することになる。

 障害のある子を産み、育てることには、さまざまな困難と大きな不安が伴う。その困難や不安を含めて「共に生きる」社会を築くためにも、出生前診断について議論を尽くすことが大事だ。

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