鉄道業界インサイド

“脱切符化”が加速する 券面にQRコード、回数券からポイント還元の時代へ

枝久保達也
枝久保達也

90年前のアメリカ製“自動改札機”

 2020年は首都圏で本格的に自動改札機が導入されて30周年の節目の年であった。改札で駅員が切符にハサミを入れる光景は、30代でもほとんど記憶にないかもしれない。それどころか、ICカード乗車券がなかった頃の光景すら急速に過去のものになろうとしている。

 自動改札機の歴史をひもとくと、古くは1927年に開業した日本初の地下鉄(現在の東京メトロ銀座線)で、10銭硬貨を直接投入してバーを回すと1人が通過できるというアメリカ製自動改札機が導入されている。現在のような乗車券を読み取る自動改札機は、日本では63年に近鉄技術研究所が研究開発に着手し、66年に近鉄の大阪阿部野橋駅で実地試験を行ったことに始まる。

 その後、磁気を使ってデータを記録する自動改札機が開発されると、71年から73年にかけて東急電鉄、札幌市交通局、阪神電鉄、横浜市交通局、南海電鉄、大阪市交通局(現・Osaka Metro)などの新規開業路線を中心に本格導入され、80年頃までに関西の主要な私鉄、地下鉄では導入がほぼ完了した。首都圏で自動改札機の導入が遅れたのは、当時の磁気乗車券は記録できる容量に限りがあり、首都圏の複雑な路線網には対応できなかったからだ。

 80年代後半になってそれまでより多くのデータを記録できる磁気券が開発され、ようやく首都圏でも自動改札機の導入が可能になった。90年にJR東日本と営団地下鉄(現・東京メトロ)が自動改札機の導入を開始すると、すぐに大手私鉄にも広まり、それまで多くの人手を要した改札業務の省力化に成功した。

 自動改札機の導入により鉄道サービスも姿を変えていく。1991年にはJR東日本が磁気式プリペイド乗車カードの「イオカード」、96年に営団地下鉄と東京都交通局の都営地下鉄が「SFメトロカード」を導入し、乗車券を買わずに乗車できるサービスを開始した。続いて2001年に「Suica」、07年に「PASMO」が導入され、ICカードの時代に突入する。

 これらサービスの普及により切符を買う手間がなくなり、券売機の台数を削減できるようになった。また磁気乗車券に対応した自動改札機は、投入された切符を搬送する装置や、磁気情報の読み込み・書き込みを行う装置など精密機器の塊で、1機あたり1000万円ともいわれる高価な代物だ。これに対してICカードの読み取り部は安価であるため、IC専用改札機の導入は大幅なコストダウンを可能にした。

 現在、首都圏のICカード利用率は9割を超えており、紙の切符を使っているのは回数券利用者と長距離利用者、めったに鉄道を利用しないためICカードを持っていない人に限られている。しかし、こうした光景も10年もしないうちに様変わりするかもしれない。

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