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「見えない」バンドライブの緊張感 怪物さんと退屈くんの12ヵ月 椹木野衣

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「見えない」バンドライブの緊張感 怪物さんと退屈くんの12ヵ月 椹木野衣

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第5回公演「重力放射の夜」=2014年5月20日(提供写真)  【アートクルーズ】

 コアオブベルズはなにものなのか? と尋ねられると、しばし返答に困る。ロックバンドと言えばそうなのだが、彼らのライブを見て「なるほど」と納得する者は、さぞかし少なかろう。

 耳をつんざくサウンド

 たとえば先日、私が六本木で見た「重力放射の夜」と名付けられた公演では、1時間半に及ぶステージにはついに、メンバーは誰ひとり姿をあらわさなかった。むろん、演奏は行われた。それもまったくの切れ目なしに。しかしそれは、はたして一曲なのだろうか? クラシックの組曲のように起承転結がはっきりとあり、緻密に構成されているわけではない。耳をつんざく重金属の塊のようなサウンドが、観客を囲む三方から、ひたすら放射され続けるだけなのだ。

 黒い壁の向こうで

 まちがいなく演奏をしているのに、その姿が見えないのは、ステージを囲んでコの字状に黒い壁が立てられていて、メンバーはその背後で演奏しており、椅子に座った観客からは、その視線の向かう先を完全に邪魔されてしまっているからだ。

 けれども、その様子を見ている者が誰もいないわけではない。コの字形の壁に沿って、一段だけ高くされた通路がぐるりと設けられており、記録のためだけにしては妙に多い人数のカメラマンたちは、自由にそこを行き来して、彼らが演奏する様を自由に撮影しているからだ。

 もしかしたら観客も、カメラマンたちと同じように椅子を立ってそこに昇り、演奏の様子を目の当たりにしてよかったのかもしれない。けれども、そうする者はひとりもいなかった。みな一様に、舞台上でいま、なにかが起きているかのように、90分ものあいだ前方を見続けるばかりだった。なぜ、そんなことができたのか。それは、ステージにはひとが不在であるにもかかわらず、ライティングだけは、そこに誰かがいるかのように工夫を凝らされ、終始、途切れず続けられていたからだろう。

 ゆえに感じる「気配」

 そういう点では、この公演でコアオブベルズが来場者に感じさせようとしたのは、気配なのかもしれない。見るものがなにもないからといって、感じるものまでなにもないとは限らない。日常ではとうていありえない大音量に全身を包まれているからこそ、かえって、はじめて感じることができることだってあるだろう。場合によっては、錯覚や白昼夢のように、ないはずのものが、蜃気楼(しんきろう)のように浮かび上がってくることだってあるかもしれない。

 これは、私が足を運んだ一夜に限らない。実は本公演「重力放射の夜」は、彼らの名で組まれ、1カ月に1回のペースで、計1年にわたる連続企画「怪物さんと退屈くんの12ヵ月」のうちの5月の一夜(第5回)だったのである。

 毎回様変わりさせて

 全体を通じてのタイトルにあるとおり、この企画が主題にしているのは、「怪物」と「退屈」という、およそ相対立するふたつの要素の共存関係だろう。もしも本物の怪物に出くわしたら、誰も退屈する者などおるまい。身を守るのに必死になるはずだ。けれども、怪物が実体ではなく、気配のようなものにすぎなかったとしたら、どうだろう。まったく反対に、自分は平気だとばかりに、かえって平静を保とうとし、退屈さえ装ったりしないだろうか。

 ただし、それは緊張感ある退屈である。たしかにあの「重力放射の夜」も、見るものがなにもない以上、退屈といえば退屈ではあった。しかし、それは単なる退屈ではなかった。いつ、なにが起こるかしれない極度に緊張した退屈なのだ。ただならぬ気配が、それを弛緩(しかん)したものにすることを許してくれないからである。

 怪物と退屈を共存させるため、彼らはあらゆる手を尽くす。ゆえに、ステージは1回ごとに、似ても似つかぬものとなり、演出も演奏もまったく様変わりしてしまう。バンドとはいっても、演劇やパフォーマンスはもちろん、音楽や文学、美術の要素も適宜、盛り込まれ、不要なものは音楽の鑑賞に不可欠なものであっても、容赦なく削り取られる。冒頭でかれらのことを「ロックバンド」と紹介するのに躊躇(ちゅうちょ)したのは、そのためだ。

 彼らはこの手法のことを「退屈な降霊術」と呼び、「現在の僕たちの生活をどこか反映した普遍に届くことと信じています」と記している。たしかにいま、私たちはさまざまな見えない恐怖に24時間、つねに囲まれて暮らしている。コアオブベルズが仕掛ける12カ月は、そのような事態を、たしかに反映している。(多摩美術大学教授 椹木野衣(さわらぎ・のい)/SANKEI EXPRESS

 ■さわらぎ・のい 1962年、埼玉県秩父市生まれ。同志社大学を経て美術批評家。著書に「シミュレーショニズム」(ちくま学芸文庫)、「日本・現代・美術」(新潮社)、「反アート入門」(幻冬舎)ほか多数。現在、多摩美術大学教授。

 【ガイド】

 core of bellsの「怪物さんと退屈くんの12ヵ月」の第6回公演「ウワサの眞相(しんそう)」は、今月(6月)23日(月)午後8時から、六本木SuperDeluxe(東京都港区西麻布3の1の25 B1F)。前売り2500円、当日2800円(1ドリンク付き)。予約サイトwww.super-deluxe.com/room/3677/

 7月23日(水)、8月20日(水)にも午後8時から公演を予定。問い合わせはcoreofbells@hotmail.com。

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