SankeiBiz for mobile

過激と静寂 変幻自在の凄腕ドラマー リチャード・スペイヴン「ホール・アザー」

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのエンタメ

過激と静寂 変幻自在の凄腕ドラマー リチャード・スペイヴン「ホール・アザー」

更新

 この連載でも取り上げた男性ボーカリスト、ホセ・ジェイムズが常に活動を共にするドラマー、また期待の新人女性ボーカリスト、ルス・コレヴァのプロデューサー、リチャード・スペイヴン。彼がニューアルバムをリリースした。ロンドン在住のミュージシャンでありながら、ニューヨークやブルガリアのアーティストと交流を持ち世界を旅する彼は、僕も個人的に尊敬する国際派であり、常にアメリカとイギリスという音楽の2大先進国を行き来しながら活躍する希有(けう)な存在でもある。

 数々のコラボで脚光

 僕が彼を知ったのはネット上のクラウドファンディングでアルバム製作費を調達し話題を集めたキーボード奏者、マーク・ド・クライヴ-ロウの来日公演がきっかけだった。現在はロサンゼルスを活動拠点とするマークがかつてロンドンに住んでいたころにリチャードと交流があり、東京で彼を紹介してくれたのだ。シャイでおとなしい人柄とは裏腹に、変幻自在のプレーで凄腕ドラマーの名にふさわしいアグレッシブなドラミングが印象的だった。

 彼がブレークしたのは、ロサンゼルスの新進気鋭のクリエーター、フライング・ロータスと共演したころだったろうか。彼は、ジャズ界のレジェンド、アリス・コルトレーンのおいっ子でヒップホップをより抽象的かつエレクトリックに進化させたビートミュージックなる音楽をクリエートし、世界的に注目され始めていた。そのフライング・ロータスとのコラボでリチャードも一躍脚光を浴びる。そして、名門レーベル、ブルーノートと契約を果たしたホセ・ジェイムズとの世界ツアーで評価を決定的なものにしたのだ。

 ボーカリストと並列

 そんなリチャードがリリースしたニューアルバムはまさに彼がさまざまなアーティストとのコラボレーションを通して獲得した音楽性を随所にちりばめたユニークな作品になっている。ルス・コレヴァ的な繊細なボーカルの起用で、神秘性を獲得。ホセ・ジェイムズからインスパイヤーされたR&Bのテンポ感にロンドン時代に得意としたブロークンビーツやドラムンベースの複雑なリズムを組み合わせ、なおかつ前衛的なロサンゼルスのビートミュージックの影響をふんだんに取り入れている。

 一言ではその方向性を言い表せない独特な世界観が表現された作品だが、歌もの、インストゥルメンタルを問わず徹底的にたたきまくるリチャードのプレーが主役になっている。通常、ステージでの配置は常にボーカリストの背後になるドラマーでも、本人名義のアルバムでは、ボーカリストと並列、あるいは中央に位置しているあたりが斬新である。

 それでも、決してうるさいという印象はなく、全編通して貫かれる幻想的かつ映像的なアレンジで、この作品は極上のリスニングアルバムに仕上がっている。最先端、最高峰である技術と発想を持ちながら、実は寡黙なリチャードの性格も反映されているのかもしれない。いずれにしても、そのアンビバレントがニューアルバム「ホール・アザー」の魅力なのである。過激と静寂。その両者が共存する音楽を堪能していただきたい。(クリエイティブ・ディレクター/DJ 沖野修也/SANKEI EXPRESS

 ■Richard Spaven 幼いころに見たバディー・リッチの演奏に衝撃を受けドラマーを志す。ジャズだけでなく米国のヒップホップからロンドンのクラブシーンまで、さまざまな影響を受けた。4ヒーロー、グールズ・ジャズマタズなどの仕事を重ね、現在もホセ・ジェイムスをはじめ幅広いミュージシャンと活動を続けている。

 ■おきの・しゅうや クリエイティブ・ディレクター/DJ/執筆家。著書に『DJ選曲術』や『クラブ・ジャズ入門』など。1月発売の『DESTINY replayed by ROOT SOUL』がiTunesダンス・チャート1位を獲得。今年、沖野修也DJ25周年を迎える。

ランキング