海外情勢

クルド難民、イラクへ大挙 迫る冬、国連・NGO支援も足りず

 シリア内戦が大きく動いた。トルコのシリア北部侵攻で、20万人ともされる少数民族クルド人らが住居を追われ、隣国イラクにも大挙して流入。荒涼とした難民キャンプに身を寄せた。「もう家には戻らない」。目前と思われた自治権確立は遠のき、氷点下まで冷え込む冬が迫っている。

 イラク北部ドホーク郊外の平原に2000以上の白いテントがひしめく。「自分は難民になったんだ」。10月末、その一角で20代のアラス・ムハンマドさんがつぶやいた。同9日のトルコの侵攻を受け、シリア北東部カミシュリ近郊の村から妻と長女を連れて避難してきた。

 2011年から続くシリア内戦下、クルド人はイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)との戦闘で米軍に協力し、多大な犠牲を払って本拠地・北部ラッカを解放。同時にユーフラテス川東岸の広大な地域を実効支配した。カミシュリは“首都”の位置付けだった。だが米軍撤収とロシア・トルコの合意により、支配地域は急速に失われつつある。

 アラスさんはトルコ側部隊の攻撃を直接目にしたといい「軍人も市民も関係なく殺された」と語った。トルコのエルドアン大統領をどう思うか尋ねると「テロリスト」と即答。東部の支配に乗り出したシリアのアサド大統領も「信じない。誰も信じられない」。アラスさんは青い瞳を閉じた。

 別のテントでは生後約2カ月の女児、セブダちゃんが泣いていた。母親のウリバン・アブドさんによると、ここに来てから左目がひどく充血し、痛みを訴えているようだという。「専門医に診てもらいたいが、キャンプの外に出ることは許されていない」と話した。

 このキャンプは既に受け入れ者数が上限の1万1000人を超えた。別の場所で新たに設営されたキャンプに到着したばかりの40代のアドナン・アーディさんは「4人の子供たちの将来はどうなるのか」と語った。

 国連などによるとトルコの侵攻後、シリア北部で20万人以上が避難を余儀なくされた。大多数がクルド人とみられる。シリア人権監視団(英国)は、攻撃で100人以上の民間人が死亡したとしている。

 避難生活の長期化は避けられない。キャンプでは国連や非政府組織(NGO)がマットや毛布のほかヒーターの提供を急いでいるが「全てのテントには届いていない」と難民の一人。先が見えないことが、何よりもつらいという。(ドホーク 共同)

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