高論卓説

「病院船」が再認識 サポート体制整った好立地の母港が重要

 約1年前に、このコラムで病院船の提案をした。昨年末以来の新型コロナウイルス感染の爆発的な広がりを受けて、改めて病院船の必要性が再認識された。「政府においても加速的に検討する」との国会答弁もあった。ここで新しい視点も加えてもう一度述べたい。

 飛行機を使って多くの人がグローバルに往来するようになった現在では、新種の感染症の世界的な流行が常態化すると考えられる。それに対処するための常設的な施設を運用することは、国の重要な機能として位置づけられるべきである。

 病院船は、今回のように急激に増加した感染症保因者の一時的な隔離場所として有効なことは明らかだ。また、パンデミック発生地が海岸に近ければ、直接近くまで行って保因者や患者を収容することも可能である。

 もちろん、地震や津波、火山噴火や洪水などの大規模な災害の発生時には、1週間以内に被災地近くに達し、被災者の治療に当たる。大災害の経験から、発災後3日目ぐらいから備蓄していた燃料が底をつき、活動に支障が出ることが指摘されている。この時期に自前の燃料を持ち、自力展開して活動できる医療チームが参加することは重要である。

 病院船が最先端の病院として機能するために、それをサポートする母港が必要である。母港は別途病院を持ち、スタッフの交代要員が働きつつ訓練を受ける場所とする。また、母港病院は潜在的な保因者の日本への上陸に際しての防疫を担当し、必要に応じて保因者を隔離する。

 さらに、感染症の早期診断キット、AI(人工知能)などを使った画像診断技術、そして治療法の研究開発を手掛ける研究機能も持つこととする。新規ウイルスや病原菌のゲノム解析を高速に行って診断や治療に役立てる機能も重要である。

 その上、母港病院は、新規感染症対策や防災医療についての国際的な医療ネットワークの一環をなす。特に東アジア地域の若い医師、看護師、技術者の研修機能を持ち、母国での同様な施設の展開の支援を行う。

 母港は、いざというときの保因者の隔離が容易ではあるが、主要な都市からの迅速なアクセスが可能な場所に立地すべきであろう。また、地震や津波、台風などの自然災害が比較的少ない場所が望ましい。

 一方で、平時はこれらの施設を積極的に活用して医療ツーリズムを推進する考え方もある。

 世界の富裕層の関心は、「健康な長寿」である。全ゲノム解析を基にして、食事や生活習慣の改善指導を受けつつ日本各地を観光し、結果としては寿命が延びる実績が上がれば、参加希望者は列をなすに違いない。

 最近可能になりつつある再生医療や放射線治療の適用ができれば、その魅力はさらに増す。そのようにして、施設の運営費を確保しつつ、高い技術とモラルを維持して有事に備える。関係諸機関の真剣な検討を望みたい。

【プロフィール】戎崎俊一(えびすざき・としかず) 理化学研究所戎崎計算宇宙物理研究室主任研究員。東大院天文学専門課程修了、理学博士。東大教養学部助教授などを経て1995年から現職。専門は天体物理学、計算科学。

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