オープンイノベーションの手引き

ステップ(4)“痛み”に鈍感な大企業 まずやるべきことは「自社分析」

TOMORUBA
TOMORUBA

 日本のイノベーション創出を促進しようと、経済産業省は、事業会社とスタートアップによる連携の手引きを取りまとめています。しかし、そのボリュームは膨大です。本連載は経産省の手引きをベースに、オープンイノベーション支援をおこなうeiicon company(エイコンカンパニー)代表の中村亜由子氏が、社外との事業提携を成功させるための各種ノウハウをわかりやすく解説するコラムです。業界の第一線に立ち、その課題と動向を熟知したプロがアドバイスします。

《オープンイノベーション実践における自社の理解(大企業編)》

 前回まで、2回にわたりオープンイノベーションの失敗事例や乗り越え方を説明してきた。今回は大企業の方に向けて、「オープンイノベーション実践」を見据えた際の「自社分析」の重要性についてお伝えしたいと思う。

危機感と焦燥感の正体

 大企業に勤めるビジネスパーソンは得てして事業の行き詰まりや経営破綻への危機感を持たない。「そんなことはない。強い危機感を持っているよ!」という方もいるだろう。それは嘘ではないと思う。ただし、おしなべて「本気で危機感を持っている」と言い切れるであろうか。さらに、危機感を持つと主張するあなたは「焦燥感」を持っているか? と問われたらどうか。

 自身のスキル・能力が会社の未来を左右する、ひいては日本の未来を左右する。だからもっともっとやらねば、なんとしてもやらねば…、どうしよう、どうやったらできるんだ、でも走れ走れ…。そう感じているだろうか。

 では、そもそも「危機感」と「焦燥感」は必要なのか。どうしても持たねばならないのか。

 私はそうは思わない。「スタートアップには危機感があり、大企業には危機感がないからダメなんだ」という文脈で使われている場合において言えば、この比較はナンセンスだとすら言えると思う。「危機感」や「焦燥感」は内発的な人間の感覚であり、「危機感を持て」と言われても残念ながら持つことはできない。「焦ろう」と言われて焦ることができるものでもない。

 ただ、重要なのは「焦る必要があるのか」、「面前に危機が迫っているのか」だ。本来は「死」が目前に迫っていて、走ることができれば避けられる「死」だった場合、それはなんとしても「危機」に気づかなければならない。「目前に迫る死」に気づかないことなどあるのか。それがあるのが大企業の怖さだ。

 「死」が迫る。この企業の死とは、比喩ではない。事業が立ち行かなくなり、企業としての死を遂げることを指す。そして、この死は全ての企業に等しく訪れる危機であるともいえる。移り変わりゆく世の中のニーズを察知し、適応していかなければ、企業はいずれ死ぬ。

 経済学者のピーター・ドラッカーが約40年前に提唱したイノベーションの7つの機会。彼は、この7つの機会を明示し、これらに適応していくことができない企業は衰退すると説いた。

  • 予期せぬ出来事:顧客の反応や売れ筋など成功・失敗における現実の変化
  • ギャップの存在:需要と業績、常識と実際などにおける差異
  • ニーズの存在:プロセスや労働力、知識などに対するニーズ
  • 産業構造の変化:急速な成長やそれに伴う対応など、産業・市場の変化
  • 人口構造の変化:人口増減や少子化、高齢化など人口構造の変化
  • 人の認識の変化:生活様式など人々の価値観や認識、知覚の変化
  • 新たな知識の出現

 時代は変わる。その時代に適応していかなければ企業は死ぬ。「死と向き合い、死に抗えているかどうか」それが、危機感と焦燥感の正体である。

大企業が陥りがちな「無痛感」と衰退

 大企業は、規模の小さい企業に比べ、この危機感と焦燥感を感じにくい。それは事実だ。大きなカラダは、痛みを鈍化させる。企業は人の集合体であり、規模が大きくなれば業務も細分化される。

 業務の細分化は痛みの鈍化に直結する。例えば、非常に優秀な人材が、「製品のスピードを、0.1秒早めるために研究に没頭している」。これは製品の競争力を高めることに直結する仕事なのだから、必要なことである。

 ただし、企業としての意思決定・競争優位性、リソースを意図的に投下していることなどを理解せずに、ただその部の管理職や社員が職務を全うし続けることは今の時代に取り残されていくことを意味する。他の仕事もすべて同様だ。

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