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リチウムイオン電池は「信念の結晶」 ノーベル化学賞・吉野彰氏の強き思い
ノーベル化学賞に輝いた旭化成名誉フェローの吉野彰さん(71)が開発したリチウムイオン電池は、さまざまな新技術の結晶だ。開発過程では多くの困難に直面したが、「社会に必要とされるものを作る」という強い信念で実用化につなげた。
川崎市にある同社研究所の係長だった吉野さんは昭和56年、ポリアセチレンという高分子を使って何か新しい研究ができないか模索していた。電池の負極材料に使うことを思い付いたが、電池として実用化するには、小型化に適した別の材料が必要だった。
特殊な炭素繊維が社内で研究されていることを知り、これを使えば小型化できることを突き止めた。しかし、この繊維はまだ試作段階だったため、量産は不可能。市販されている炭素材料を100種類以上も試したが、どれも使い物にならず、肩を落とす日々が続いた。
そんなある日、都内の石油精製企業を訪問すると、製品展示コーナーに銀色にきらめくコークスがあるのを見つけた。石炭を蒸し焼きにして作る炭素燃料だ。「間違いなく、よい性能が出る」と直感した。
提供してほしいと申し出たところ、企業の担当者は「使用目的を明らかにしないと提供できない」。リチウムイオン電池を開発していることは企業秘密で、話せるはずがない。「1キログラムでも」と食い下がったが、「通常の取引量は船1杯分」と担当者。「せめてトラック1杯分を」と頼み込んだが、無駄に終わった。
「このままでは開発が止まってしまう」。青ざめていた吉野さんの元に200リットルのコークスが届いたのは半月後だった。これをリチウムイオン電池の初期の負極材料に使った。「担当者には今も感謝している」と吉野さんは話す。