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「人生までボンヤリした様に感じ悲しかった」 遺影を撮り続ける女性写真家の思い

吉田由紀子
吉田由紀子

 大阪・茨木市で会社を経営する大辻眞弓さん(69)。2000年に株式会社ふわふわという着ぐるみの製作・販売会社を立ち上げた。以来20年間、仕事一筋にがんばってきた方である。

 その大辻さんが、創業20年の節目として選んだのが「遺影」の撮影であった。

 「遺影を撮影する年齢ではないけれど、今度70歳になりますので、少しずつ終活を考えていきたいと思うようになりました。知人が遺影を撮ってもらったという話を聞き、私も元気なうちに写真を撮っておきたい。そう思い、お願いしました」と大辻さんは話す。

 彼女が撮影を依頼したのが、写真家のうえはたみきさん(38)。遺影を撮り続けている女性カメラマンである。

 昨年12月のある日、撮影現場を取材させてもらった。

 うえはたさんの撮影は、一般的な写真スタジオでの撮影とは、かなり様子が違う。相手の希望する場所へ出かけていくのが基本である。

 事前の準備は入念だ。まず、撮影対象の人を知ることから始める。予約が入った時から、メールや電話でやりとりをして相手のプロフィールを作っていく。年齢や仕事、趣味はもちろん、子どもの頃になりたかったもの、将来の夢、好きな音楽を聞き出していく。

 「写真は、人となりを表すものだと思います。どうやったら相手の方が活きるだろうか、自然な状態で写せるだろうか、やりとりを通してイメージを膨らませていきます。今回の大辻さんは、着ぐるみを作るお仕事が大好きで、20年間がんばってこられた方です。その年月や思いを写真に残せるよう、ご自身のオフィスで撮影させていただきました」(うえはたさん、以下同)

 撮影の1時間前からプロのヘアメイクが入念に化粧をしていく。その間、うえはたさんはBGMを流してリラックスをさせる。大辻さんの好きなアリスや伊勢正三のヒット曲を流しながら、楽しげに質問をしていく。何をしている時がいちばん楽しいですか? 何がいちばん好きですか?

 小さかった写真をムリヤリ引き伸ばして

 それにしても、うえはたさんは、まだ30代。この若さでなぜ遺影を撮り続けているのだろうか。その原点は、駆け出しの頃の辛い経験にあるという。

 大学卒業後、京都の写真館に就職したうえはたさん。学生時代は写真を鑑賞するのは好きだったが、撮影の経験はなかった。プロの写真家になりたいと思うこともなかったという。

 「写真館では毎日いろいろな写真を現像・プリントする作業を行っていました。当然、遺影を作成することもよくありました。ほとんどの方は、遺影用の写真を残しておられず、旅先での集合写真などから加工することが大半だったのです。そんなある日、お父様を亡くされた娘さんが集合写真を持って来店されました。お聞きをすると、急逝だったとのことです。写真のお父様は、とても小さく、それをムリヤリ引き伸ばして遺影にするしかありませんでした。他に方法がなかったのです。結局、その遺影は画質が粗く、ボンヤリとしたものになってしまいました。ご自身の人生までボンヤリしたように感じて、とても悲しかったことを憶えています」

 この体験をきっかけに、プロのカメラマンになろうと奮起したうえはたさん。必死で写真の勉強をしていった。

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