社会・その他

「上から目線」じゃ効果なし パワハラ常習犯にお釈迦様が伝えた意外な言葉

 暴力的な言葉はその後、社会で負の連鎖を起こす

 言葉遣いに慎重にならなければならないのは、取引先に対しても同じ。自分の会社がクライアント(カネを払う側)だからと言って、強い立場にいると錯覚して、ああしろ、こうしろと高圧的に注文やクレームをつける人がいる。

 また、タクシーに乗った際、運転手さんに横柄な態度を取ったり、飲食店のウエイターやウエイトレスにたいして召使いに声を掛けるような言葉遣いをしたりする人もいる。こういう人は、人間性が疑われる。

 あなたが投げかけた暴力的な言葉はその後、ひとり歩きをする。あなたから、人間性を否定された取引先の人や、罵詈雑言を投げつけられたタクシー運転手さんはきっとその日は悔しさと情けなさで、心穏やかにいられないだろう。彼らは帰宅後、ひょっとして奥さんに冷たい態度をとってしまい、家庭崩壊を招く可能性もある。言葉から生じる憎悪は、病原体のウイルスのようにどんどん伝播し、社会全体のなかで負の連鎖を起こしてしまうのだ。

 「へりくだり、やさしい言葉で話す人は、他人にうやまわれて迷うことなく悪事にはかかわらないのでうらまれることは早く自然と無くなる」(『法句経』第8章 言葉の章 2)

 --宮澤大三郎著『原始佛典 全訳「法句経」』

 誰に対しても、常に敬意を払い、丁寧な言葉を使うように心がけたいもの。正語を心がければ、和顔(わげん)につながる。これを和顔愛語(わげんあいご)といい、無量寿経というお経に書かれている。丁寧に言葉を選んでいけば、相手から慕われ、自分も相手も穏やかな表情になるということ。

 どうしても攻撃的な性格を抑えられない人は……

 それでも、自分はどうしても攻撃的な性格を抑えられない、正義感ゆえ自分にも他人にも厳しく当たってしまう、という人はどうすればよいか。ぜひ、マインドフルネスや座禅などの瞑想を実践してもらいたい。

 ここではあえてその実践方法は紹介しないが、瞑想に関する書物は多いし、マインドフルネス教室なども多数開催されている。瞑想はストレスを軽減させる、感情がコントロールできるようになる、うつを予防するなどの効能が期待できる。

 パワハラ攻撃を受けた時に思い出したいブッダの言葉

 では、相手からパワハラ攻撃を受けた場合はどうするか? まず、責められる自分自身が悪いんだ、と責任を感じないことが肝要だ。

 「一つの岩の塊りが風に揺がないように、賢者は非難と賞賛とに動じない」(『法句経』第6章 賢い人の章 6)

 --中村元訳『ブッダの真理のことば 感興のことば』

 言い換えれば、右から左へと受け流すことも必要、ということ。しかし、そうは言っても、耐え忍ぶことができない、うつになりそうだ、という人はいるだろう。その場合は、会社に見切りをつけ、退社する決断も視野に入れるべきだ。なぜなら、お釈迦さま自身が、苦行から逃れることで悟りを開いた人だからだ。

 このように、会社勤めを「現代の修行」とするならば、理不尽な要求やパワハラは「苦行」とみられなくもない。しかし、よく考えてほしい。会社勤めにおいて、苦行が本来の目的ではないはず。本来は心身とともに健全な状態のなかで、誠実に仕事に向き合って成果を出し、自身や家族ともに充実し、あなた自身がこころ穏やかな毎日を送ることが大事なのだ。

 鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)

 浄土宗僧侶/ジャーナリスト

 1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『仏教抹殺』(文春新書)など多数。近著に『ビジネスに活かす教養としての仏教』(PHP研究所)。佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事。

 (浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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