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“マスなき時代”の共通体験価値 「一蘭」カップ麺人気を考える

秋月涼佑
秋月涼佑

 初対面の方と少々重ための会議をする際など、冒頭天気の話など当たり障りない話を少しするだけでそのあとの空気が驚くほど軽くなり、無用なギスギスを感じることなく話をすすめられたというような経験はビジネスマンなら多くの方が感じたことがあるのではないでしょうか。

 アイスブレイクとも呼ぶでしょうか、一方そんなささいな方法論ひとつにさえ最近は全く省くべきという意見もあったりするので物事単純にはいきませんが、とにかくそんな場合の話題が政治、宗教など機微に触れるものであってはならないということだけは確かなようです。

 実はお互いの関心が重なりやすくて、邪気のない話題の筆頭がラーメン話だったりします。もちろん人間である限り食に興味がない人はそうはいないはず。でも、今流行の7万円超え接待の自慢話では相手を白けさせるに決まっています。そんな時、有名ラーメン店の話題は存外に共感を得やすくそれが結構な地方都市の小さなお店のお話だったとしても何かの折にお互い立ち寄っていたりで往々盛り上がります。

■20年以上の開発期間を経て商品化の鳴り物入り

 博多発祥“一蘭”のカップラーメン「一蘭 とんこつ」が、一蘭各店やローソン、ドン・キホーテで発売以降、大人気ゆえの売り切れでネットを騒然とさせています。一方でかろうじて入手した好事家の食レポが続々アップされ、さらに関心を誘っています。少なくともコンビニエンスストアで販売している商品としてここまでの入手困難は極めて異例に感じますし、アマゾンなどでは1000円で出品している業者もいるほどですから、市場の欠乏感が察せられるというものです。

 確かにこれだけ話題になれば、少なくとも“一蘭”のブランディングとしては大成功かもしれません。20年以上の開発期間というこだわり感や、スープや麺の味をストレートに味わって欲しいということで具材がない潔さにもかかわらずの490円(税込)という価格設定は、身近さも過ぎればブランドの陳腐化につながりかねないギリギリのライン内側、絶妙なコースを狙ってきた感じがします。

 一蘭は元々、博多の屋台が発祥の生粋の博多豚骨ラーメンで今や全国にチェーン展開しています。あまたあるラーメン店の中で、全国区になったのは味集中カウンターなどユニークなお店づくり。照明が落としてあって、色味を落とした店内の道場のような静けさと緊張感。明るく開放的なお店作りという飲食店定石の真逆をいくユニークさと、こだわりの味を多くの生活者が支持したからでしょう。

■「490円」のエンターテインメント性

 さて、そんな好奇心を刺激する要素の満載さに抗しきれず必死の調達をして手に入れた貴重な“一蘭 とんこつ”を試食してみることとしました。

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