TMIP通信

スタートアップや新規事業の社会実装はなぜ難しいのか (2/2ページ)

 柳氏は、監督官庁への登録プロセスが遅滞した理由は残高の高額化によるリスク回避なのではと推測しています。当時のやりとりの経緯を、「私たち自身も新サービス実装のためのプロセスを設計できていれば、先方ももう少し腹を割って話すことができたのではと思っています」と、振り返りました。

 続く福岡氏は日本だけでなく、海外でも新製品・サービスを実装していますが、「日本だから難しかったと感じたことはありません」とご経験をお話しいただきました。

 福岡氏が取締役兼CTOを務めるWHILL株式会社では、電動車椅子を取り扱っており、日本だけでなく海外でも販売しています。現在は自動運転技術を用いた新サービスを羽田空港や慶應義塾大学病院などで展開しています。

 電動車椅子はヨーロッパだと医療機器と分類されますが、日本では福祉機器という他の国にはないカテゴリーに分類されます。福祉機器の製造販売は規制がそこまで多くないのですが、携帯回線を用いたIoT機能を搭載したモデルの介護保険適用を求めたところ、承認されなかったといいます。

 携帯回線を用いたIoT機能は、電動車椅子に問題が発生したときに迅速な状況把握と対応を可能にするためのものでした。これにより、顧客の満足度を向上させるだけでなく、サポートが効率的になることで社会的コストも削減できると見込んでいました。しかし、福岡氏は「有識者による委員会では好意的な意見も出ましたが、結果としては承認されませんでした。実際に会議を傍聴していましたが、あれ?IoTの議論が突然終わったけどこれは否決されたということ?という内容で、承認可否のポイントは分かりませんでした」と話します。

 福岡氏のコメントを受け、話題は省庁の縦割り組織に横串を刺すとしたら何を求めるのか、という内容に移りました。柳氏は各省庁に問い合わせても個別回答ばかりで、全体像の把握が困難という問題を指摘しました。「デジタル庁などで横串を刺すのであれば、各省庁の法律をトータルで見た上で検討が進められる形にしてもらえればと思います」と希望を述べると、全員から賛同の声が上がりました。

 では、今後どのような方法で新規事業の社会実装は実現可能なのでしょうか。最後にそれぞれの意見を伺いました。

 「日本は、人と人との関係で成立してきた側面がある国です。社会実装のためには、官民学の壁を越え、話せるような関係性を一人でも多くの相手と作っていけると良いと思います」(柳氏)

 「官公庁の中でも、完璧に法律を運用するチームもあれば、新しくチャレンジしようとしているチームも存在します。後者が省庁全体への働きかけを目指してくれると嬉しいですね」(福岡氏)

 「社会実装の方法論については私たちも学んでいくしかないですし、それは民間も官庁も同じだと思います。ルールが良い方向に変わったら賞賛されるような仕組みを取り入れるだけでも変わっていくのでは、と思います」(馬田氏)

 今回のイベントを通じて、新技術やサービスの社会実装の難しさについて理解が深まり、特に、行政を巻き込みながら推進する際の日本ならではの課題および乗り越え方について重要な示唆が得られました。

Tokyo Marunouchi Innovation Platform(TMIP)
Tokyo Marunouchi Innovation Platform(TMIP) 産官学街が連携するイノベーション・プラットフォーム
Tokyo Marunouchi Innovation Platform(TMIP)は、大手町・丸の内・有楽町(大丸有エリア)のイノベーション・エコシステム形成に向けて、大企業とスタートアップ・官・学が連携して社会課題を解決することで、グローバルなマーケットに向けたイノベーションの創出を目指すプラットフォームです。TMIP会員の皆様を起点とした、イノベーション創発を支援する様々な仕掛けや活発なオープン・ イノベーション創発機能と会員同士の顔が見えるコミュニティを提供しています。

【TMIP通信】では、大企業とスタートアップ・官・学連携のもと大手町・丸の内・有楽町地区のイノベーション・エコシステムの形成を推進するTMIPによる、イノベーション創出に資するノウハウや知見を語った招待制イベントの様子などをご紹介します。アーカイブはこちら

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus