【Fromモーニングピッチ】超高齢化社会の必然 ケアテックベンチャーは最先端技術で課題解決に挑む

2020.7.24 07:00

 デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。

 モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回は高齢者の生活や介護現場を支える「Care Tech(ケアテック)」です。

 テーマ概観を説明するのは前出忠彦です。大企業とスタートアップの協業推進に携わっています。脳こうそくで倒れた祖母を10年間にわたり、母を中心に家族介護をしていた経験を踏まえ、今回の特集を担当することになりました。

 市場は拡大の一途

 介護業界は卵のような構造をしています。黄身の部分が居宅介護支援や地域密着型サービスなどの公的保険サービスとすれば、周りの白身は運動や食、予防といったヘルスケアといわれる公的保険外サービスに当たります。それが超高齢化社会という「お皿」に載っている構図を想像してみてください。

 続いて仕組みです。公的保険サービスは基本的に自己負担が10%で、残りの90%は公的介護保険で賄われる仕組みになっていますが、このサービスの報酬は予めサービスごとに決められています。このため介護事業の経営は、定期的に見直される介護報酬の影響を大きく受けます。

 同サービスの市場規模は右肩上がりを続けています。サービスが導入された2000年は3兆6000億円でしたが今や10兆円を超え、これに伴い保険料の負担額も増えています。

 深刻な介護人材不足

 公的介護保険外サービス市場も順調に成長しており、経済産業省は25年の市場規模が16年比で32%増の33兆1000億円程度まで拡大するとみています。とくにフィットネスやトレーニング機器など、高齢者の運動量を高めるサービスの伸びが期待されています。

 一方で深刻な社会課題があります。支え手である介護人材の不足です。需給ギャップは拡大し続け、2035年には68万人分の介護職員の労働力不足が予測されています。このため要介護や、その予備軍で心身の活力が低下する「フレイル」といった状態にならないようにするため、予防サービスの拡充が社会として求められています。

 さりげない見守りデバイス

 ここでケアテックを巡る最近のトレンドを見てみましょう。大きく3つに分けられます。

 まず「高齢者の運動量の向上と外出を促すパーソナルモビリティ」。ウエアラブルタイプの時計端末を活用したトレーニングや、VR(仮想現実)によるリハビリ治療機器、電動タイプの車いすなど、さまざまなサービス・商品が登場しています。次に「日常生活に溶け込む、さりげない見守りデバイス」としては、テレビや冷蔵庫、ベッド、電気の使用量などで高齢者や要介護者を見守るというサービスが相次いで登場しています。3つ目が「労働力不足が深刻な介護現場の業務支援AI、介助ロボット」でケアプランの作成支援を行う人工知能(AI)や、実際に介助を行うロボットなどが活躍しています。

 AIの活用も相次ぐ

 スタートアップと大企業や自治体との協業事例も相次いでいます。IoTベンチャーのチカク(東京都渋谷区)とセコムは、高齢者向けの新サービス「まごチャンネル with SECOM」を開発、セコムを通じて販売を開始しました。動画や写真などを通じてコミュニケーションを楽しみながら、見守りができるのが特徴です。

 見守りセンサーシステム事業などを展開するエコナビスタ(東京都千代田区)はヒューリックと提携し、AIやIoTを活用したスマートシニアハウジング構想に着手しました。神奈川県ではエクサウィザーズ(東京都港区)が開発を進める要介護度予測AIの実証事業を行いました。

 今回は成長著しいスタートアップ群の中から人材不足などの市場課題を踏まえ、ロボットやAI事業などを展開する5社を紹介します。

 上り坂も快適な“手押し車”

 RT.ワークス(大阪市東成区)は、高齢者が外出の際に活用する手押し車「シルバーカー」の弱点を克服した、歩行アシストロボット「RT.2」を販売しています。上り坂ではパワーアシストが働いて楽な歩行を実現する一方で、下り坂では自動ブレーキで減速。坂の途中で手を放してしまっても、センサーによる感知で自動停止します。すでに介護市場で5000台の販売実績があります。

 IoT見守り

 高齢者の体調の急変や事故を未然に防止する次世代型見守りサービスを提供するのが、エコナビスタです。大阪市立大学と共同開発した独自のアルゴリズムによって、疲労回復や快眠など健康維持のための指数を用いてデータを解析し、健康面でのアドバイスを行います。睡眠と疲労回復に影響を及ぼす製品や食品を共同開発するため、アパレルや寝具、食品メーカーとの協業にも取り組む考えです。

 分身ロボット

 利用者のもう一つの身体として、あたかもその場にいるようなコミュニケーションが可能な分身ロボット「OriHime」シリーズを展開しているのが、オリィ研究所(東京都港区)です。ロボットにはカメラやマイク、スピーカーが搭載されており、タブレット上のアプリを通して直感的に操作を行えます。難病など身体的なハンディキャップがある人はもちろん、健常者の新しい働き方にも寄与します。

 施設と潜在介護士のマッチング

 介護人材不足の問題を解決するため、介護ワークシェアリングサービス「カイスケ」を展開しているのがカイテク(東京都港区)です。人手が不足している介護施設と、空いた時間を有効活用したい介護士や看護師との間を、単発案件に絞り直接的にマッチングする仕組みです。「慢性的な労働力不足」といった事業所の課題と、介護士の「副収入を得たい」「複数の事業所を見比べたい」といったニーズに応えます。

 約10秒で尿を解析

 ユカシカド(東京都渋谷区)は、採尿を通じ栄養の過不足を評価できる世界初のパーソナル郵送キットを提供しています。1週間程度でスマートフォンやパソコンから結果を閲覧できる点が特長です。また、簡易版もリリースしました。専用の検査シートに尿をつけ、シートの変色具合を専用アプリで読み込むと約10秒で解析が完了するので、ビタミン・ミネラル・食事の質などを評価できます。

 COVID-19に罹患した場合、高齢者や基礎疾患を持つ人の致死率が高いため、高齢者・介護施設では、より高度な対策が求められます。それだけに、ケアテックベンチャーのさらなる飛躍に注目が集まります。

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前出忠彦(まえで・ただひこ)

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京都大学大学院工学研究科卒。2015年PwCコンサルティング合同会社入社。自動車部品、アパレル業界、医療機器メーカーなど様々な業界・分野にてサプライチェーン、間接材コスト削減をはじめとした様々なマネジメントコンサルティング業務に従事。2019年8月デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社入社。大企業とスタートアップとのオープンイノベーション推進に向け、協業プラン、事業計画の伴走支援に従事。

【Fromモーニングピッチ】では、ベンチャー企業の支援を中心に事業を展開するデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)が開催するベンチャー企業のピッチイベント「Morning Pitch(モーニングピッチ)」が取り上げる注目のテーマから、日本のイノベーションに資する情報をお届けします。アーカイブはこちら

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