高論卓説

中小に迫る時間外労働の上限規制 優先順位の相違解消で生産性向上を

 4月から中小企業においても、時間外労働の上限が原則月45時間、年360時間となる。月平均30時間、月20営業日とすれば1日1.5時間だ。特別事情で労使合意する場合でも年720時間以内、月45時間超は年6カ月まで。違反には懲役6カ月以下または罰金30万円以下が科される。加えて、違反企業が公表されることはビジネスにも影響を与えかねない。時間外労働を含む労基法違反企業・事業所は、送検日とともに、厚生労働省で公表され、昨年12月時点で全国387社が掲載されている。(山口博)

 一方、経営者からは「1日1.5時間の残業に収められるはずがない」「人手不足の中、採用もままならない」「1人当たりの生産性を上げるために、何をどうすればよいかわからない」という悲鳴が絶えない。実は、わずか10分で生産性を上げることができる、誰でもできるとても簡単な方法がある。「そんなうまい話があるはずがない」という反応に接するが、経営者のみならず一般社員が活用して、「仕事がスムーズに進むようになり効率が上がった」と実感している方法だ。

 その方法とは、優先順位基準のギャップを解消する方法だ。企業で演習していると、生産性を損なう原因の一つに、上司と部下、自チームと他チームの間で、優先順位の基準が食い違っているケースがある。

 指示する方は、いつまでに実施しなければならないかという緊急度に着目しているが、指示される方は目標達成を考えているケースもある。どの程度の売り上げに寄与するかという貢献度で優先順位を捉えがちな人もいれば、その業務の難易度や、その業務が与える影響度で捉える人もいる。「その業務ではなくて、あの業務を先にやってほしかった」ということが後になって分かって、急遽(きゅうきょ)別の仕事に取り組んだり、仕事のやり直しや、調整の時間と労力を費やした経験のある人は多いだろう。

 生産性を上げようと思って優先順位をつけたのに、「優先順位」としか伝えていないことで、生産性を損なう本末転倒なことになってしまうのだ。

 優先順位基準のギャップを見極めるために最も簡単な方法は、次の7ステップだ。

 (1)現在抱えている業務を付箋1枚に1業務ずつ10業務を書き出す

 (2)付箋上部に優先順位の番号(1から10まで)を記入

 (3)重要度の大、中、小の文字を10枚の付箋の右下におのおの記入。重要度大は、その業務を実施しなければ目標達成できない業務、中は、その業務を実施しなければ目標達成できないかもしれない業務、小はその業務を実施してもしなくても目標達成には関係ない業務のこと

 (4)付箋の左下に緊急度の大、中、小を記入する。例えば今週終了させる業務は大、来週ならば中、再来週ならば小というように期限で区分する

 (5)A3用紙の縦軸に、上から重要度大、中、小と書き、横軸に右から、緊急度大、中、小と書き、付箋を貼る

 (6)付箋上部の番号が、右上から左下に並ぶようだったら、重要度、緊急度によって最初の優先順位を付していることが分かり、そうでなければ、他の基準によって優先順位をつけていることが分かる

 (7)上司と部下、同僚同士などで対比して、優先順位づけの基準の相違を明確にする

 わずか10分でできるので、活用していただければ幸いだ。

【プロフィル】山口博

 やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国大非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。

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