仕事で使えるAIリテラシー

「機械が仕事を奪う」は誤解 AIブームを正しく理解しよう (1/2ページ)

高田朋貴
高田朋貴

 みなさま、はじめまして。AI(人工知能)の開発・運用、AI人材の育成・採用サービスを提供している、株式会社SIGNATE(シグネイト)の高田朋貴と申します。AIを開発・運用するために必要な人材の条件や、AIを適切に活用していくためにビジネスパーソンが身につけるべきリテラシーについて紹介していく本連載。第1回は、「なぜAIは日本企業にとって重要なのか」についてお話したいと思います。

 AIに期待が集まる2つの理由

 今、日本は空前のAIブームです。弊社も出展している「AI・人工知能EXPO」は年々来場者数が増え続け、昨年4月の開催では、AI専門の展示会にもかかわらず、4万8000人以上の来場者数を記録しました。盛況につき、今年からは年2回の開催になるそうです。

 どうして、これほどAIへの注目が高まっているのでしょうか? その理由は大きく2つあると考えています。ひとつは深刻な人手不足。少子高齢化が進む中、労働人口の減少に多くの日本企業が頭を悩ませています。だから、これまで人間が行っていた単純労働を機械に置き換え、少ない人数で仕事を回せるようにしたい。そういうニーズがあります。

 もうひとつは、生産性の向上です。AIの導入によって無駄な作業を減らし、従業員にはもっと生産性の高い仕事に集中してもらいたい。単に仕事を機械で置き換えるのではなく、人間とAIがコラボレートすることで、仕事の全体的なクオリティを上げられるのではないかという期待があるのです。

 では、実際の例を挙げて説明しましょう。

 属人的なノウハウを企業の資産にする

 以前、SIGNATEでは食品メーカー様の依頼で、「豆腐の需要予測」というコンペティションをAI開発者向けに行ったことがあります。豆腐は生鮮食品なので長持ちしません。作りすぎてしまったら破棄となり、不足となれば機会損失になる。だからメーカーとしては、明日は何丁の豆腐が売れるのか正確に予測したいわけです。

 その予測は今まで現場の責任者の経験と勘に基づいて行われていました。気温や湿度、過去の売れ行きや近隣のスーパーの賑わい具合など、さまざまな情報から総合的に判断していたのです。コンペティションでは、そういったデータをAIが分析することで、「明日、何丁の豆腐が売れるのか?」という需要予測の精度を競いました。その結果、人間が行っていた場合に比べ、予測精度は15%改善しました。

 AIによって無駄なコストをカットできたわけですが、この事例の意義はそれだけではありません。実は企業の人手不足の解消にも役立っています。

 企業の中にはさまざまなノウハウが蓄積されています。需要予測もそのひとつでしょう。しかし、そのノウハウの多くが属人的なものになってしまっているために、豊富な経験を積んだベテランが退職してしまうと、ノウハウそのものも失われてしまう。これは従業員の高齢化が進む日本企業の大きな課題になっています。

 しかしこのケースでは、それまでベテラン社員の経験と勘に頼っていた判断をAIに置き換えられるようになったことで、需要予測のノウハウを企業の資産として社内に蓄積することができるようになりました。極端な話、明日から若手社員だけで豆腐工場を運営しなければならなくなったとしても、ベテラン社員と同じかそれ以上の精度で需要予測を立てられるようになったわけです。

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